「実は泳げない」遠藤憲一 43時間の漂流を演じた理由

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宮田裕介
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 東日本大震災で津波にのまれ、43時間漂流したにもかかわらず生還――。そんな奇跡的な実話をもとにしたドラマが7日、放送される。NHKスペシャル「星影のワルツ」(夜9時)。どの役にもはまる名バイプレーヤーの遠藤憲一が過酷な体験をした主役の男性を演じる。海の中でもがき苦しむ場面もあるが、泳げない人。それでも今回のドラマに臨んだ心境を聞いた。

 遠藤が演じるのは、福島県南相馬市の60歳の農家・大谷孝志。震災後、津波に一緒に流された妻の恭子(菊池桃子)とは離ればなれに。孝志は自宅の屋根の上に乗って、43時間漂流したにもかかわらず、命をつなぎとめた。今作は、漂流場面に焦点を当て、妻との日々の回想や東京に住む娘夫婦(川栄李奈、岡山天音)の姿を挿入しながら、日常の尊さや、あの日の教訓を描く。

 実話であり、モデルの男性は健在だが、遠藤はあまり意識しないようにしたという。「僕の場合、人に寄せようとあまりしないんですよ。もちろん、体験を紙面で読んだり、映像を見たり、勉強しました。けれど、自分の中にあるものから出さないと生き生きしていかない。自分が同じ境遇になったら、どんな感情になるのか想像しながら演じました」

 漂流のシーンは、千葉沖で実際に屋根を浮かべて撮影した。海の中でもがき苦しむ場面もあるが、「実は泳げない」といい、少し抵抗感があったという。それでも、すぐに逃げなかった後悔、妻とのかけがえのない日常を失ったさみしさといった様々な感情を抱えながら生きようとした男性を演じてみたい気持ちが勝ったという。「極限の状況下で、一生に一度あるかないかの設定。自分の全て注ぎ込んでやった」

 また、無力感や悔しさがあった。

 「震災直後に何もできなかった。コロナ禍も同様なんですが、俳優は人の生き死に役に立たない仕事だと思いました。時間がたった後であれば、芝居を楽しむ余裕がうまれ、皆さんの心を豊かにできるかもしれない。でも、直後は俳優一人では何もできないな、と思いました」

 10年前の震災直後、ボランティアに行けなかった後悔もあった。東北とのゆかりもある。「沿岸部ではないのですが、おふくろが福島出身で、亡くなったおやじは宮城です。子どもの頃、夏休みになるとよく行っていました。何か役に立ちたかった」。その一心で今作を含め、震災に関連した作品にかかわってきたという。

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 今回の撮影は南相馬でも行っ…

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