北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)総書記が、朝鮮労働党や朝鮮人民軍の統制や監視を強化している。体制維持をめぐる不安の表れなのか、逆に安定した統治基盤を手に入れた証しなのか。韓国の北朝鮮専門家の間でも評価が分かれるが、共通するのは、体制を支える既得権層と正恩氏との関係に変化がみられるという見方だ。

 正恩氏は1月に開いた党大会の期間中、「闘争の対象とするべきは勢道と官僚主義、不正腐敗」、「勢道と官僚主義、不正不敗の根を断とうとすれば、規律体制を新しくつくらなければいけない」などと繰り返し訴えた。

 勢道とは、朝鮮時代の後半、王の信頼を得たグループが政権を握る「勢道政治」からきた言葉だ。北朝鮮は正恩氏の「唯一独裁」体制といわれるが、実際には正恩氏も利権を押さえる党幹部らからなる既得権層を無視できない。

 正恩氏の党大会での発言は、この既得権層への牽制(けんせい)とみられている。

利権と結びつく既得権層

 既得権層とは、どのような存在なのか。北朝鮮の内部とやりとりする情報関係者によると、建国の功労者として朝鮮戦争の孤児や幹部の子どもが通った万景台革命学院や南山学院の卒業生の学閥を中心に、10万人ほどで形成されているようだ。党や政府の要所、さらには利権と結びつく部署を押さえているという。

 利権は貿易にかかわるものが多い。密輸入を含めて貿易商が賄賂を既得権層に渡し、もうけを分け合う。成功した貿易商は「金主」と呼ばれる新興富裕層となり、さらに既得権層と深く結びついている。党大会で「不正腐敗との戦い」を強調した正恩氏の発言には、この結託にくさびを打ち込む狙いがあったようだ。

 最近、北朝鮮当局は中朝国境や市場の監視を厳しくし、外国製品を「反社会主義的」として統制を強めている。北朝鮮の関係者は「新型コロナウイルスの警戒もあるが、既得権層が掌握する利権を正恩氏が取り上げようとしている」とみる。貿易決済に必要な巨額の外貨をヤミで扱う両替商への取り締まり強化も締め付けの一環という。

党幹部への監視も強化

 正恩氏は制度面でも党幹部らへ…

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