ムハンマドの教え、実は科学的? 断食効果に世界が注目

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ドバイ=伊藤喜之
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 断食をめぐる預言者ムハンマドの教えは合理的だったのではないか――。近年、そんな仮説を科学的に確かめようとする研究がイスラム世界で盛んだ。日本の科学者が解明した、ある身体の神秘が研究の大きな支えになっているようだ。

 アラブ首長国連邦(UAE)の商都ドバイで自動車関連会社に勤める日本人男性(40)は日頃から胃腸が弱く、仕事で無理をするとすぐにおなかを壊すのが悩みの種だった。それが昨秋からある習慣を始めると、症状は見られなくなった。それだけではなく、コロナ禍の在宅勤務で10キロ近く増えた体重が6キロほど減る効果もあった。

 暮らしに取り入れたのは、夕食後の夜7時半ごろから翌日の正午ごろまでの16時間ほど、水やコーヒー以外は口にしない時間を区切った断食だ。男性は「16時間には寝ている時間も含むので、空腹を感じる時間は少なくて済む。すぐに慣れた」と話す。

 イスラム社会では毎年、ラマダンの約1カ月間、日の出から日没まで飲食を断つ。断食が信仰とともに根付く中東に暮らして10年余り。近年、男性がよく見聞きするのは「ラマダン中のように、食事時間を制限するタイプの断食は科学的にも健康に良い」という主張だ。イスラム教徒の上司は「空腹が続くと、体の古い細胞が新しく生まれ変わる仕組みがあるらしいんだ」と話していた。どこか、誇らしげにも聞こえた。

 後に、その仕組みは細胞の自食作用と呼ばれる「オートファジー」という体の機能のことだと知る。細胞が自分自身のたんぱく質を分解して再利用する仕組みで、何もせずとも多少は働いているが、特に活発になるのが、飢餓状態に陥ったときだという。最後の食事から12時間以上経つと活性化しはじめ、16時間でさらに活発になるとされ、細胞内をきれいにする作用や病原菌を排除する免疫の働きも促進されるらしい。

 東京工業大学大隅良典栄誉教授が世界で初めて解明し、2016年のノーベル医学生理学賞を受賞したメカニズムだった。

疾病リスク減少との研究も

 2月中旬、ドバイの隣の首長国シャルジャのカフェで私が待ち合わせたのは、シャルジャ大学のモエズ・イスラム・ファリス准教授(栄養学)だ。

 席に着くなり、「ほら、これをみてくれ」とノートパソコンを広げた。画面には大隅氏の顔写真とノーベル賞のメダルの画像。学生たちへの講義で最初に見せるスライドだという。

 「大隅先生が発見したオート…

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