ワクチン接種率低い黒人 「自分は実験台」の感覚、今も
日曜に想う 沢村亙アメリカ総局長
「I AM A MAN」
私は、人間だ。そう書かれたプラカードをそれぞれ首から下げ、黒人の男たちが白人の州兵が構える銃の先を黙々と行進していく。
1968年、米テネシー州メンフィスで、市の黒人清掃員が過酷で差別的な待遇に抗議して立ち上がった。当時各地で繰り広げられた公民権運動でも、とりわけ胸をつく一コマである。キング牧師は彼らの支援に駆けつけたメンフィスでテロの凶弾に倒れている。
3年前、当時の行進参加者に取材する機会を得た私は問うた。
なぜ、あのスローガンを?
交渉に訪れた市役所で、白人の市長が言い放った。
「BOY。なんの用だ」。すかさず仲間が返した。「私はMANです」。半世紀がたち、70代半ばになった元清掃員のバクスター・リチャード・リーチさんはまだ悔しそうだった。「本当は名前で呼んでもらいたかったね」
2月は米国の「黒人歴史月間」。奴隷として連れて来られ、あまたの差別をくぐり抜けてきたアフリカ系(黒人)の歩みを振り返る。だが、冒頭のスローガンを思い出した理由は、ほかにもある。
バイデン氏も認めざるをえない「闇」
「構造的な人種差別、はびこる白人至上主義の存在を認め、対処するための措置を我々は講じている」。バイデン大統領が今月、国務省で述べた一節である。米国の力を誇るはずの外交演説で、「闇」を認めざるを得ない苦悩。
人種や価値観を巡る米国の分断が人命にかかわる安全保障上の脅威になり、中国などが「米国流は、もはや模範ではない」と内外でふれ回る昨今、直視を避けられないのも、現実だろう。
新型コロナウイルスのワクチン接種をためらう黒人が少なくない。接種率は白人の半分とされる。世論調査でも接種に前向きなのは5割ほど。ここにも歴史の闇が影を落としている。
公衆衛生当局は1932年か…
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