感染ゼロ「積み重ねる」 唄人羽とライブハウスの挑戦

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岩田誠司
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 コロナ禍で「3密」のイメージに苦しむライブコンサートの当事者たちが、悩みつつ活路を探っている。それぞれの暮らしのために。音楽を力に生きる人たちのために。

 「ライブができてよかった。ようやく、そう言えます」。福岡と佐賀出身の2人によるアコースティックデュオ「唄人羽(うたいびとはね)」が、緊急事態宣言発令下の1月17日に福岡・天神の「ROOMS」でライブを開いてから3週間。観客や関係者から感染者は出ず、ボーカルの本多哲郎(41)=佐賀県唐津市出身=は安堵(あんど)のため息をついた。

 本格的な公演は2019年12月以来だった。20年春に予定していた全国ツアーはコロナの感染拡大で断念。イベントも次々と中止となり、見込んでいた収入はすべて消えた。

 「生活は楽じゃないですよ」。ギターの安岡信一(43)=福岡県出身=はそう言った後、言葉を継いだ。「でも、一番つらいのは、ライブができないことでした」

 持続化給付金や自治体の支援金を受けながら、インターネットでライブの有料配信を始めた。経費は少なく、遠方のファンにも見てもらえる。過去のアルバムをそれぞれ振り返るライブも企画し、楽しんでもらえた。ただ、スタジオの中でカメラに向かって歌うだけの「ライブ」では、満たされないものが常にあった。

 観客の前で歌えていた時は、目の前ではじける笑顔や歓声に高揚し、涙を流す姿に、誰かを癒やしたり勇気づけたりできていると感じられた。「それが音楽を続けるモチベーションになっていたと気付いた。ライブができない日々は、音楽をやる意味を見失い、やめたいとさえ思った」

 感染第2波がおさまった昨秋、1月のライブ開催を決めた。福岡市の支援事業を活用しネットで同時配信する「ハイブリッド公演」とし、観客は収容人数の40%と、感染予防対策ガイドラインの基準(50%)より絞った。定期的に15分の休憩をとり大型扇風機も使って換気し、来場者に接触確認アプリの利用や、歓声や会話を控えることをお願いするなど、会場の「ROOMS」と協力して準備を進め、当日を迎えた。

     ◇

 スポットライトがともり、ステージに2人が上る。奏でた音は一気に膨らみ、圧をもって客席に迫った。安岡は来場者を見回してニヤリと笑い、言った。「ライブは違うやろ?」

 最前列にいた40代の女性は、演奏が始まった瞬間、涙がこみあげた。「心臓が、体が、音と振動を感じて鳥肌が立った。ライブだ!!って。コロナ以降、いろんなことを我慢してきたから、うれしくて。これでまた仕事も頑張れる」

 不安はあった。ライブに行くことは友人や職場の同僚にも言わなかった。でも、会場の感染対策を見て安心したという。観客は会話を控え、手拍子と拍手を送っていた。「これなら大丈夫。そう思えました」

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 終演直前、本多は、コロナ禍…

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