車中泊も苦にせず 研磨職人がフィギュア選手に注ぐ情熱

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金島淑華
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 「何かあった時に対応出来なくて後悔したく無いので、勝手に来てしまいました」

 昨年12月24日、長野市のビッグハットのそばにとめた車の中で、スケート靴の研磨職人の橋口清彦さん(48)はツイッターにこうつぶやいた。

 ビッグハットではフィギュアスケートの全日本選手権開幕を翌日に控え、公式練習が行われていた。宇野昌磨トヨタ自動車)ら担当する選手が何人もいた。

 選手は試合の数週間前には靴を仕上げている。でも、万が一のトラブルに備えたかった。自宅のある愛知から研磨機材を積んだ車を走らせた。

 翌日の昼過ぎ。「全日本も本番が始まりましたね。午前中も何も連絡が無かったので大丈夫でしょう」。そうつぶやき、長野を離れた。車中待機は2日間で18時間。誰にも会うことはなかった。「いいんですよ、それで」

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 昨年2月に独立した橋口さんは、愛知を中心に全国を回り、研磨をはじめとしたスケート靴のメンテナンスをしている。スケートリンクの内外に店舗を構える業者や職人が多いなか、出張専門サービスはきわめて珍しい。靴の刃の研磨なら1回1500円。選手の都合に合わせて駆けつける。

 アイスホッケー選手だった中京大時代、リンクでのアルバイトに熱中した。「貸し靴の接客や整氷の手伝いなど携わるすべての仕事が楽しかった」。卒業後、愛知県内のリンクに管理運営スタッフとして就職。研磨は業務の一つで、上司に教わりながら腕を磨いた。

 小学生時代の浅田真央さんら五輪選手も担当してきた。ただ、専業ではないため、他の仕事中に靴を持ち込まれると断らざるをえないケースが度々あった。

 7年前、100万円をかけて研磨機などの機材を購入。勤務時間内に断った分は、深夜や休みの日に選手の自宅や練習場所に出向いて対応した。

 それでも、経験を積めば積むほど依頼は増え、すべてに応じることはできなかった。2019年6月から宇野を受け持つようになったが、やはりリンクでの仕事が優先。「心苦しかった。頼ってくれる選手たちの役に立ちたい」。日に日にその思いは強くなった。

独立を後押しした宇野の涙

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