分かち合う震災の物語 2人は「語り」の共作者になった

有料記事東日本大震災を語る

聞き手・小峰健二
写真・図版
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 東日本大震災後に東京から東北に移り住み、被災した人々の声や、変わりゆく風景を記録し続ける表現者がいる。映像作家の小森はるかさん(31)と、画家で作家の瀬尾夏美さん(32)。27日から順次公開される映画「二重のまち/交代地のうたを編む」は、震災の記憶を未来にどう受け渡せばいいのかという問いかけから生まれた。被災地に心を寄せる2人に聞いた。

【特集】東日本大震災を語る

長谷部誠さんやサンドウィッチマンら、様々な分野で震災に思いを寄せる人たちにインタビューしました。

 ――映画「交代地のうたを編む」は、2011年3月11日の震災を被災地では経験していない「非当事者」である4人の若者(旅人)が被災地を訪れ、住民の声を聞き、その言葉を語り直す姿を記録しています。初めは映画にする前提ではなく、「語りの場」をつくることから始まったと聞いています。

 瀬尾 このプロジェクト自体は、18年秋に行ったものです。その前年の初めごろから、岩手県陸前高田市のかさ上げされた場所に、新しい「まち」ができ始めていました。かさ上げが進む最中には、まちの人たちは昔のまちが見えなくなることに不安を感じていましたが、新しいまちができると、今度はその生活に向きあって懸命になるフェーズに変わり、日常的に震災の話が出にくくなってきた。私たちも「震災の話をなかなか聞けなくなるな」と当時感じていました。

 一方で、展覧会や上映活動で別の都市に行くと、若い人から「震災の時に何もできなくて申し訳なかった」という話を聞かされることが頻繁にありました。震災当時は小学生くらいだったので、語る立場にない人たちだったのだなと思ったんですね。こういう人たちが「いま知りたい」と言うのであれば、ぜひそうしたほうがいい。陸前高田の人たちも、日常的に震災のことを話さなくなってきたけれど、時折立ち止まりたい気持ちがあるような気がする。両者が会えば必ず「語りの場」ができる。話を聞いてしまえば誰かに伝えなければという気持ちや、抱えきれないから誰かに話そうという気持ちも起こる。運動体が生まれる場づくりをしてみようというのが、最初の発想でした。

 ――お二人はワークショップをするために募集をかけました。若い男女が被災者の語りを聞き、ほかの誰かに語り直すという試みが見られます。映像に記録したのはなぜでしょうか。

 瀬尾 映画か展覧会でのインスタレーションというアウトプットがありえるだろう、と考えました。アウトプットがあるからこそ、安全に進められることもあります。参加者たちも、自分は表に立って伝える人間だということを引き受けて応募してくれるわけです。

 ――瀬尾さんが創作した「二重のまち」という物語があります。かさ上げされた新しいまちで、下にあったかつてのまちを思いながら暮らす2031年の人々を描いた作品ですが、ワークショップではこの物語も朗読され、映像に記録されています。

 瀬尾 書いたものは、自分の手を離れていった方が面白くなる。人の身体を通していくことによって、物語が変容したり、新たな文脈に結びついたりすることがある。東京や仙台、陸前高田でも朗読会を開き、参加者と一緒に朗読したことがあったのですが、声にしていく過程でみんなが思い出話を始めたり、「自分の地元も都市開発でなくなった」「自分も親しい人を亡くした」というような話を始めたりすることがありました。物語を分かち合い、解釈を膨らますことで陸前高田の話であるけれど、どんどん自由になれるような感覚がいいなあと。

 ――この15日間に及んだワークショップは、すでに映像作品になっています。19年2月に仙台で上映されましたが、今回公開されるものには大阪の場面も加えられていますね。

 小森 4人の旅人のひとりで大阪に住んでいる坂井遙香さんが「歩くことで陸前高田にいた時間を反芻(はんすう)している」と言っていました。大阪のまちを歩きながらも、陸前高田のことも考えるし、日常の中にそれが続いている、と。体の中に二重性を持っている感じです。彼女が大阪を歩いているところを撮ることで、半年後の4人の生活の中に続いているものが映るのではないか。そう思いつき、撮影に行きました。

 ――被災地だけで伝えていくのでなく、外に開かれているように感じられる。「継承」のテーマが顕著に浮き上がってくる場面です。

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 小森 編集するなかで気づい…

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