日韓で対立、主権免除とは 在日米軍の騒音訴訟にも関係

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鈴木春香
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 元慰安婦だった韓国人女性が損害賠償を求めた訴訟で、韓国の裁判所は1月8日、日本政府に賠償を命じる判決を下しました。焦点になったのが、「主権免除」という概念です。国家に対しては、別の国の裁判権が及ばないという国際法上の原則ですが、今回の判決では適用されませんでした。「主権免除」という考え方はどのように生まれ、どんなときに問題になるのでしょうか。早稲田大学法学学術院の萬歳(ばんざい)寛之教授(国際法)に話を聞きました。

 ――「主権免除」の意味を改めて教えてください

 「『主権免除』は『国家免除』『国家の裁判権免除』とも呼ばれます。『X国の裁判所で、Y国は裁判を受けなくて済む』、つまりY国はX国の国内法上の責任を追及されない(免除される)ことを意味します」

 ――主権免除が焦点になった裁判は過去にもあるのですか

 「日本で主権免除が争われる裁判の多くは、米軍関連です。例えば、米軍横田基地などの軍用機騒音に苦しむ周辺住民らが起こした訴訟では、米国政府に夜間早朝の飛行差し止めを求めましたが、米軍の公的な活動には日本の裁判権が及ばないとして退けられています」

 「国外では昨年、新型コロナウイルスへの対応の遅れなどをめぐり、米国の州や個人が中国政府などを提訴しました。中国の責任を米国の裁判所で訴えられるのか、という点で主権免除が関わっています」

 ――そもそも、主権免除という考え方はどうしてあるのですか

 「主権国家が併存するようになった17世紀末ごろから国際交流が活発になり、ある国の代表が外国を訪問したり、常駐の外交使節団を置いたりするようになりました。そのなかで、外国国家の機関や代表に敬意を払う儀礼上の理由と、任務の遂行を妨げないという機能上の理由から、『国家同士は対等であり、対等な相手には裁判権を持たない』という考えが生まれました。相互主義的な利益交換の意味合いで制度化されたと考えられます」

 ――外国国家が対象であれば、どんな事案でも裁判が免除されるのですか

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 「元々は、国家が対象であれ…

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