霞が関、崩壊への危機感 職場を愛した元官僚が語る現実

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聞き手 編集委員・浜田陽太郎
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 霞が関の中央省庁で、若手を中心に官僚が続々と職場を去っている。千正康裕さん(45)は2019年秋、18年半働いた厚生労働省をやめた。そして、「官僚に国民の役に立つ仕事をさせるための改革」を訴えてきた。著書「ブラック霞が関」に描かれた若手官僚の過酷な日常と、私たちの生活はどうつながっているのか。

業務量は激増

 ――河野太郎行革担当相がブログで明らかにしたように、内閣人事局のまとめでは、2019年度の20代総合職(キャリア)の自己都合退職者数は6年前から4倍以上になったといいます。霞が関で何が起きているのでしょうか。

 「異常な長時間労働などで健康を害したり、家庭との両立ができなかったり、というのが大きな要因です。もう一つは上から降ってくる仕事に追われて自分で政策を考えて実現できる感覚がなくなってきているのも若手の悩みです」

 「政策作りの中核を担うエース級も含めてどんどん離職が進み、志望者も減っている。このままだと行政の質は落ち、ミスも増える。霞が関の政策を作るという機能は崩壊して、国民に迷惑がかかってしまう。そんな危機感を抱いてきました」

 「仕事は増えるけれど、それに応じて人は増えないからです。特に、私がいた厚労省は、一億総活躍、働き方改革、人づくり革命、就職氷河期などの政権の重要政策の中心で、仕事が激増しました。そこに、今回のコロナ対応が加わっています。」

 ――確かに、自民党が19年にまとめた調査では、答弁回数や国会審議への出席時間などは厚労省がケタ違いに多いです。(令和元年6月27日付自民党行政改革推進本部「霞が関の政策立案部署等の業務量調査結果と今後の対応」)。省庁間で人員を融通することはできないでしょうか。

 「こうした業務と人員のアンバランスは、厚労省だけの問題ではありません。一度、現在の業務量を把握し、それに応じた体制とすべく、ゼロベースで見直すべきです」

 「まず霞が関全体で、不要な業務の廃止やIT化・外注で仕事を減らすことが必須です。そして、省庁ごと、部署ごとの業務量と人員のバランスを見直す。その上で、公務員全体を増やすかどうか検証するという順番でしょう」

 「社運をかけた取り組みをする部署に人を厚く配置するのは、民間企業の経営なら当たり前のことですよね。でも、霞が関では、各省とも5年でおおむね1割程度定員を減らすことになっていて、省庁の壁を越えて柔軟に人員配置を調整する仕組みはないし、政治的にも難しい」

省庁越えた異動が難しい理由

 ――なぜ難しいのでしょうか。その方が政府全体として国民の期待に応えられるのではないでしょうか。

 「誰にも恨まれない効率化と違って、省庁の垣根を越えて人員を動かすと、喜ぶ人と困る人が出るからです」

 「例えば、忙しい厚労省の定員を増やしたとします。それは、厚労省や、社会保障や雇用の仕事を一生懸命やっている国会議員にとってはありがたい。でも、減らされる役所にとっては困るし、その関連の仕事をしている国会議員も困る。だから、政治的な問題にしないために客観的な業務量の把握が大事です。」

 「霞が関全体の人員調整は、省庁のレベルを超えて力を持つ政治家にしかできません。行政の人員体制の縦割りの打破が必要なんです」

「政治主導」の功罪

 ――安倍前首相の政権で強ま…

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