お正月の食卓にまさかのサメ?フカヒレの残りは伝統食に

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松本英仁
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 ひと月ほど前、新潟県上越地方のスーパーや鮮魚店で年末年始用として並んだ食材がある。サメ肉だ。ピンクがかった白っぽさがきれいだと感じたが、信州育ちの記者には食べ方が想像できない。専門家に取材した。

 サメの競りがあると聞いて、先月27日早朝に出かけたのは上越魚市場(上越市)。サメは通年で入荷するが、毎年この日に年末年始用の食材としてまとまった競りをするという。この日は、地元で「モウカザメ」と呼ばれるネズミザメ23匹が並んだ。体長は1・5メートルほど、重さ50~95キロだが、なぜか尾やひれがなかった。

 「中華料理向けのフカヒレを取り去った残りさ」。上越魚市場の尾崎徹社長が教えてくれた。サメ肉は、江戸時代から高田地域(いまの上越市)を中心に山間部でも食べられた伝統食。かつては上越沖でも捕れたそうだが、近年は宮城産が主流という。

 「サメの競りで年末を感じる。“年取り魚”として煮付けや煮こごり、雑煮にも入れた。昔は丸ごと一本売りして、魚屋の店頭で切り売りしたもんだ」と懐かしむ。学校給食にも登場するサメ肉だが、消費量は年々減っているそうだ。かつては安くて身近な食材だったが、今では100グラム当たり150円前後で売られるようになった。

 その競りを、サメのアクセサリー付きの帽子をかぶった上越市の料理研究家、井部真理さんが見つめていた。サメ食文化や郷土食の研究を重ね、競りを「年に1回のお祭り」という。その井部さんも富山市出身で、上越市に住むまでサメ食を知らなかったそうだ。「サメを食べる文化が残っているのは、県内では上越くらい。広島県三次(みよし)市など全国でも数えるほどしかありません。最もサメを多く食べるのは上越地方の人たち」と話す。

 井部さんにサメ料理を作ってもらった。たたきのような「ぬた」はピンク色で見た目もきれい。サメを魚類だと改めて認識するほどあっさりしているが、ふわっとした脂身とうまみが口の中で溶け合って思わず箸が進む。煮こごりは皮近くにあるコラーゲンが凝固剤の役目を果たし、ゼリーのような食感と一緒に煮込んだ皮の食感のハーモニーがたまらない。サメカツは、知らずに食べた人が「ヒレ肉のとんかつ?」と勘違いするほど柔らかく、しつこさがない。和洋どちらのソースにも合いそうだ。

 「小骨がなく、お年寄りや子どもも食べやすい。コラーゲン、コンドロイチン、ビタミンA、D、Eが豊富で体にもうれしい食材」と井部さん。サメの刺し身は「マグロをしのぐおいしさ」という愛好家もいるほどだ。

 市公文書センターや井部さんの研究によると、江戸時代は上越沖で捕れたサメのひれを長崎経由で中国に輸出したとされ、残った肉が庶民の冬の食べ物として重宝されたらしい。今の妙高市のほか、国の境を越えて信州まで運ばれた記録があるという。歯はお守りや装飾品に、皮は刀のさやに、脂は照明の燃料に用いるなど捨てるところがなかったそうだ。

 井部さんによると、頭部もエラを煮こごりの材料にしたり、ほほ肉を塩焼きにしたりするなど年配の人たちしか知らない「地元ならではの食べ方、味わいがある」という。古老から聞き取った「ぬたにするなら、(売り物ではない)しっぽ近くの細い部分」との伝説もある。レンコンとサメの煮付けが武家料理だったともされる。

 井部さんは、サメ食に合う調味料「みそてり」を醸造会社と開発したほか、気軽にサメを味わってもらおうと棒状にしたカツ串も考案。高田城址での観桜会や地元の道の駅で販売し、好評だ。「サメにまつわる物語や歴史は多いのに、すたれてしまうのはもったいない。子どもや若い人にサメのおいしさを再発見してほしいんです」

 サメ食といえば上越――。そんなイメージが定着し、サメを食べに人が集まるのが目標であり、夢だ。(松本英仁)

 サメ料理 上越市立水族博物館「うみがたり」内のレストランでは、「サメのたれカツ丼」(みそ汁付き、税込み1050円)を2月末までの期間限定で販売中。道の駅マリンドリーム能生(新潟県糸魚川市)ではシャーク串カツ(税込み300円)を販売する。新潟市中央区のレストラン「ジョイアミーア」は30日、洋風仕立てのサメ料理のフルコースを味わう「鮫(さめ)肉を囲む会」(ドリンクフリー、1人税込み8千円)を計画している。

サメ料理の作り方

 《サメの煮こごり》 サメの…

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