医療的ケア児の自立支援 在宅療養ネットの英早苗さん

多知川節子
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 【香川】高松市の一般社団法人「在宅療養ネットワーク」は、全国でも数少ない療養通所介護事業所を運営する。「医療的ケア児」と呼ばれる人工呼吸器などが必要な子どもから、100歳を超える高齢者までが同じ空間で日中を過ごしている。代表理事の英早苗さん(54)に話を聞いた。

 ――療養通所介護事業所とはどんなところですか

 難病、脳血管疾患の後遺症、末期がんなどで医療と介護が必要な方が、地域で暮らし続けられるよう支える施設です。介護、児童福祉、障害者の3分野の法律に基づき、利用者の年齢に制限がないのが特徴です。1日に10人ほどが自宅から来られ、入浴、食事、リハビリなどをして過ごします。看護師、理学療法士、保育士など専門職のスタッフがチームで迎え、家族の介護負担も軽減します。

 ――設立のきっかけは

 ケアマネジャーなどとして働いていた2012年、筋萎縮性側索硬化症(ALS)を発症した女性の母親から「毎日お風呂に入れてあげたい」と相談されたのが始まりです。重い費用負担なしで実現できる施設がなく、仲間と新たに法人を設立しました。

 医療的ケア児を受け入れ始めたのは18年から。心臓疾患で医療機関に長期入院していた4歳の男の子「ゆずちゃん」の退院時、小学生のお兄ちゃんが「絶対、一緒に暮らしたい!」と訴えたのです。ただ、共働きを続けながら就学前の医療的ケア児を預けられる施設は見つかりませんでした。「小児はハードルが高いかな」と思いましたが、お兄ちゃんの思いが両親や私たちを動かしました。

 ――家族と離れて医療的ケア児をあずかる意義は

 家族の介護に頼る医療的ケア児は「体験不足」になっているケースが少なくありません。本人はゆるやかながらも発達しているのに、親は経験上トラブルの少ない体の姿勢や摂取する飲みものを変えるチャレンジができない。情報不足で不安なのです。私たちが関わることでできることが増え、生活や学校の選択肢が広がります。能動的に暮らすという意味での自立につながり、親にも子の成長を楽しむ視点が出てきます。

 ――コロナ禍で変化は

 感染症には十分注意し、0歳から101歳の方までが変わらず一緒に過ごしています。いつも眠そうな96歳のおばあちゃんが、子どもの声や触れ合いで目がパッチリし、口からプリンを味わえるようにもなりました。多世代のふれあいが目的ではありませんが、良い効果を生んでいます。

 ――地域の交流スペースも兼ねているそうですね

 昨春、施設を建て替え、子どもらの発達にあわせて活動をより広げる取り組みも始めました。ゆずちゃんの名前から「ゆずぽっぷ」と名付けています。地域住民の声も採り入れ、介護予防自治会の会合、野菜の青空市の場にもなっています。お風呂に入りに来てくつろぐ高齢者もいます。垣根をつくらず、地域連携のハブにもなりたいと思っています。(多知川節子)

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 はなふさ・さなえ 1966年、徳島県鳴門市生まれ。銀行員や主婦などを経て、福祉の道へ。医療的ケア児と家族に必要な多分野にわたるサービスを総合調整する「医療的ケア児等コーディネーター」の資格を持ち、その養成研修の講師も務める。

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