劇で伝える震災の記憶 被災地の中高生が模索 岩手

藤谷和広
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 東日本大震災からまもなく10年を迎える岩手県内の被災地では、地元の中高生が自分たちの経験をどう伝えていくか模索している。注目したのは演劇だ。

 19日、宮古市の田老一中で岩手大との合同授業が開かれた。防災をテーマに毎年開講してきたが、今回は新型コロナウイルス感染防止のため、オンライン会議システム「Zoom」を使って、二つの会場をつないで実施。昨年10月の文化祭で田老一中の生徒たちが発表した劇「未来と結ぶ9年間」について、震災を題材とすることの意義や難しさを話し合った。

 劇は、震災当日や避難所の状況、現在のまちの様子などを描いた作品で、生徒たちが自ら台本を書き、音響や照明も考えた。鑑賞した大学生からは「震災を風化させないという強い思いを感じた」「自分にできることは何か考えさせられた」といった感想が寄せられた。劇に出演した2年生の山本ゆめさん(14)は「どう伝わっているか分からなかったので、よかった」と笑顔を見せた。

 山本さんは震災当時4歳。同級生のなかには「もう覚えていない」という人も多いが、津波で祖母の家が流されていく光景や、父親としばらく連絡がつかなかった寂しさを鮮明に記憶しているという。

 保育園の友達も犠牲になり、「あまり思い出したくない気持ちもあった」と山本さん。だが、中学の授業の一環で、地域の人に震災の体験を聞くなかで、自分も語り継ぐ使命があると思うようになった。「震災を体験していない世代にどう伝えるか。来年の劇ではそこを意識したい」と話す。

 宮古市の隣、山田町でも劇を通じた伝承に着目する高校生がいる。昨年春に閉校した旧大沢小を卒業し、現在は山田高校3年の熊谷恵利さん(17)だ。

 この日、町議会で開かれた「ふるさと探究高校生議会」で熊谷さんたちは、旧大沢小で30年以上、上演されてきた劇「海よ光れ」を復活させようと訴えた。

 明治三陸津波(1896年)の被害から漁業を中心に復興していくまちの姿を描いた作品だ。熊谷さんたちは、東日本大震災をテーマにリメイクしてはどうかと提案。町の担当者は「大変意義がある。発表の場を応援したい」と応じた。

 熊谷さんは、震災の津波で祖母や親戚を亡くした。劇が途絶えてしまうことで、「これからの子どもたちが地震や津波の怖さを知る機会が失われてしまうのではないか」と心配する。

 田老一中と岩手大の合同授業を担当する山崎憲治・元岩手大教授は「震災について学びながら、自分たちで劇を作り上げていくプロセスが重要。地域の防災を考えるきっかけにもなれば」と期待を込める。(藤谷和広)

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