「逃げ恥」海野つなみさんの1・17 トラウマと救い

有料記事ほんまもん

松尾慈子
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 新春に4年ぶりの新作が放映されたドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」の原作者で、漫画家の海野つなみさん(50)は兵庫県西宮市の実家で阪神大震災を体験した。1月17日で震災から26年。海野さんに、あの日のことを振り返ってもらった。

 うみの・つなみ 1970年生まれ。89年、「お月様にお願い」でデビュー。2012~17年、「逃げるは恥だが役に立つ」(講談社)を連載。16年に新垣結衣星野源の主演で同作はテレビドラマ化され、ブームを巻き起こした。

 ――阪神大震災の時はどこにおられましたか。

 「当時は大阪で一人暮らしをしていたんですが、たまたまその前の日に神戸に用事があって、西宮の実家に泊まっていました。最初は『何これ、ミサイルが落ちたの?』というくらいの衝撃でした。実家は半壊。ただ、震災後は電話が通じにくかったので、実家住まいの兄と両親の無事がその場で確認できたのはよかったですね」

 「ベッドの上の棚からアルバムやら重い物が落ちてきて、テーブルの装飾のガラスが割れて床一面が破片だらけ、歩くこともできない状態でした。冬だから厚い布団があったけど『夏だったらやばかったね』と母と話しました。当時、関西の人たちは地震に免疫がなかったので最初、地震だと分からなかったですね」

ヒールで小学校の給水車に

 「周囲の家は、ぱっと見、普通なんだけど、よく見ると屋根がずれていたり、家が傾いていたり。道路もボコボコで車が走れない。実家はしばらく水道が止まったんですが、私、ヒールの靴で来てたので、近くの小学校の給水車のところに行くのにヒールでいかなくちゃならないのがつらかったですね。近所で井戸があるおうちが井戸水をみんなに使わせてくれて助かりました。小学校の時に同級生の家だったんですけど」

 「当日や次の日、とりあえずお水が出ないので、『下の倉庫にビールがあるよ』となって、『水が出ないからしょうがないよね~』と言って昼からビールを飲んでたりもしました」

 「水道はしばらく復旧しなかったんですけど、電気はすぐ来たんですよ。最初は状況が分かってなくて、『関西がこんなに壊滅状態だったら、東京とか静岡はもっと大きな地震が起きてたんじゃないか』と思っていたのに、テレビをつけたら、『あれ? ここだけらしいよ』となって。『高速道路倒れてる!』、うちの兄も『会社行けへんやん』と。『でもうちら被災者やから行かんでええんちゃう?』『俺が被災者か!』みたいな。最初は、こんな感じのよく分からない状態でした」

 ――いつ大阪のご自宅に戻りましたか?

 「阪急西宮北口まで、わりと早く電車が復旧したんですね。電車が復旧したら家にいてもしょうがないんで数日後に帰りました。西宮北口は自衛隊のトラックとか走ってて戦後の日本みたいな状況で、沿線でも古い長屋みたいなのは全部潰れてるしマンションの2階がつぶれていたりする。でも大阪に行くにつれてどんどん普通になっていく。変わらない街並みがあって、本当にぼうぜんとしました。うちの周りはあんな世界の終わりみたいなことになってるのに、ちょっと離れただけで大阪は何も変わっていない。すごくショックでした。これはトラウマ的になりました」

 「父はJR社員、母は看護師、兄は通信会社勤務なんです。全員復興を支える仕事をしている。父は目を真っ赤にして1週間も家に帰れないで『もうすぐ電車つながるからな~』って言ってて。母は病院から何日も帰れない。兄は『早く電話がつながるように』って。私だけ特にすぐに社会に役立てないことをしていて。『みんな復興に向けて頑張ってるのに、私、何やってるんだろう』みたいなことはずっと思ってました」

 ――どのくらいで気持ちの整理がついたんでしょう。

 「被災した友達と『被災地以外の人たちとの温度差があるよね』って気持ちを共有したりしてましたね。ちょうどその時連載中で、ネームはできていたので、ずっと描いてました。頭が空っぽでもできる。何かやることがあって精神を保っていられたところはあると思います。直接すぐに社会の役に立つわけではないけれど、何かしら仕事があったことは自分の救いになります」

 「でも、心がやさぐれているから募金活動を見たりしても、何だか心の中で『けー』みたいな気持ちがわきあがってしまって。『こんなぬくぬくの暮らししてるのになんだよ』みたいな、ゆがんだ心になっていて、その一方でそういう嫌な心を持つ自分も嫌だなと思って。すごいつらかったですね、震災後しばらくは。少しずつ回復しました」

「地方住み」 デジタル化する前は…

 ――ペンネームの由来は。

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 「漫画の投稿を始めた14歳…

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