池井戸潤が見た「産業史の奇跡」とグランドセイコー工場
池井戸潤が撮る 日本の工場
日本のもの作りを支えてきた工場の本質に、「半沢直樹」シリーズなどでおなじみの作家・池井戸潤さんが写真で迫る企画が、朝日新聞土曜別刷り「be」で連載中です。今回は岩手県雫石町の盛岡セイコー工業を訪れました。デジタル版では、池井戸さんが撮影した写真をたっぷりご覧いただけます。
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技術革新に押され、いったんは廃れた「匠(たくみ)」の技術が20年もの歳月を経て再び蘇(よみがえ)る――。
機械式時計をめぐる変遷は、そんな極めて希有(けう)な産業史の一ページだ。1969年、セイコーのクオーツ腕時計の登場により、機械式が主流だった時計業界の勢力図は塗り替えられた。精巧優美な機械式時計を得意とするスイスの時計メーカーが脇に追いやられ、1カ月で誤差±15秒という正確無比の電池式時計が主役の座に就いたのだ。
まさに華々しい日本メーカーの面目躍如だが、弊害もあった。それまでスイスに追いつけ追い越せと研鑽(けんさん)を積んできた国内の機械式製造も衰退、クオーツに製造の軸足が移ってからの「空白の20年」で技術の伝承が途絶えてしまったのだ。セイコーもまた例外ではない。コンマ数ミリの精度を保つ部品製造、研磨、組み立て。それまで世界の頂点を目指して培ってきた技術は失速し、誰もがこのまま消えゆくものと諦めていた。
ところが、ここに奇跡が起きる。
80年代後半からの高級機械…
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