トーゴ手織り布と京友禅つなぐ 持ち前の行動力で起業

紙谷あかり
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 【京都】2012年6月、日本から1万3千キロ離れた西アフリカの国、トーゴ。中須俊治さん(30)は、初めて訪れた日の光景を、昨日のことのように覚えている。空港を出ると、鼻をついたガソリンのにおい。行き交う車やバイクで土ぼこりが舞い、クラクションが鳴り響く。滞在する日本人は数人(昨年10月で2人)。珍しがられ、すぐに周囲に人だかりができた。

 「みんなにとっての正解が、ぼくにとっての正解とは限らない」。シューカツ(就職活動)に嫌気を感じていた時、あるNGOのサイトで、トーゴのラジオ局が番組制作のスタッフを募集していることを知った。「誰も見たことがない景色を見たい」。そう考え、日本を飛び出した。

 国連が認定する後発開発途上国。十分な医療や教育を受けられない人が多く、「悪魔がついている」との理由から、暴力を受けている人もいた。一方、体調を崩した時には、たくさんの人が見舞いに訪れ、祈りを捧げてくれた。誕生日など「ハレ」の日に布を買い、オーダーメイドの服を仕立てる文化にも触れ、精神的な豊かさを肌で感じた。

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 3カ月間の滞在を終えて帰国し、就職活動を再開。「地域に密接に関わりたい」との思いから地元の信用金庫に入った。経営ノウハウを習得して独立する、と心に決め、営業マンとして嵐山を飛び回った。

 ある時、手描き友禅の工房に赴いた。国内外のハイブランドと取引があり、パリコレクションにも作品を納めるほどの腕前。だが、経営資料などを見れば、それに見合った適切な評価を得られていないことは明らかだった。染料がついた職人の手は、トーゴで布を手織りする人たちの姿に重なって映った。

 「どうしたら価値を伝えられるか」。自問自答の結果、自分にしかできないことは「アフリカと京都をつなぐこと」ではないか、と考えるようになった。後に結婚する妻に打ち明けると「めっちゃ、かっこいいやーん」。背中を押してもらい、挑戦することにした。

 18年7月に退職。その3カ月後、アパレル会社「AFURIKA DOGS」を設立した。トーゴの布に友禅の染色技術を施したハンカチなどの小物を通信販売。昨年11月には京都市上京区の西陣に、ブルゾンやシャツなどをオーダーメイドで販売する店をオープンした。縫製は、トーゴの仕立職人だったカブレッサ・デアバロさん(29)が担う。青年海外協力隊員の日本人女性と恋に落ち、来日しているのを知り、招き入れた。

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 あっという間に2年が過ぎた。「ポジティブ(前向き)な側面に目を向けて動き続ける」うちに、人が集まってきた。「応援してくれる声が増えれば増えるほど、あきらめられなくなる」。行動力とスピード感を持ち味に、突っ走ってきた。

 「成功率で言ったら1千分の1ぐらい、1%もない。安定した組織にいるのにもったいない」。ともに事業を進める手描き友禅の職人、西田清さん(73)は当初、中須さんの起業に反対した。多くのアパレル会社が苦戦するのを見てきたからだ。だが、今では中須さんの理解者の一人だ。

 「応援したくなる人。今は受注生産だが、生き残るためにはブランドを立ち上げ、既製服もやっていく必要がある。エルメスやルイ・ヴィトンも、最初はオートクチュール(高級注文服)だった。夢はでかく」(紙谷あかり)

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 トーゴの友人、マックスが別れの際、「さよなら」の代わりにくれた言葉があった。普段より長く、強くハグした後、言った。「ミウォー デカ」。現地語で「二つは一つ」という意味だ。「みんなが笑って過ごせる世界をつくりたい」という夢も語ってくれた。「今度はビジネスマンとして帰ってくる」と誓った。

 6年後。信用金庫を退職し、再びトーゴを訪れた。約束を果たしたが、マックスは亡くなっていた。京都の職人が染め、トーゴの職人が縫製したオーダーメイドのブルゾンを、「ミウォーデカ」と名付けた。

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 AFURIKA DOGS 2018年10月設立。従業員は2人。ローマ字読みで誰もが発音できるつづりの「AFURIKA」と、アフリカの一部の地域で「仲間」を意味する俗語「DOGS」を組み合わせた。オーダーメイドのブルゾンは3万円。端切れで作ったぬいぐるみやマスク、バッグなどの小物も扱う。京都の染め工房で染色体験もできる。トーゴでの服作りプログラムも提供予定。

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