知的障害者へ性犯罪、相次ぐ立件見送り 法改正求める声

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伊藤繭莉
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 知的障害などがある人への性暴力について、刑法に「障害に乗じた犯罪」とする規定を設けるよう求める声があがっている。被害に遭っても理解できなかったり状況を説明できなかったりして、立証に困難を伴うためだ。被害者支援団体の代表らは「加害者とは知識や判断能力に差があることを踏まえた対応が必要だ」と訴える。

 現行刑法は、強制性交罪などの成立には暴行や脅迫があったことを要件としている。だが、知的障害がある被害者は、自身が受けている行為が犯罪にあたるとの認識がなかったり、言葉巧みに性的行為をされたりする。抵抗を抑えつけられても状況を説明できないこともある。

 こうした場合、「心神喪失もしくは抗拒不能(抵抗が著しく困難な状況)に乗じた」との規定がある準強制性交罪などを用いることがある。ただ、被害者に障害があっても適用が難しいケースもある。

 法務省が3月に公表した報告書によると、2018年度に検察が「嫌疑不十分」として不起訴にした性犯罪は548件あり、うち少なくとも61件(11・1%)で被害者に障害があった。嫌疑不十分の理由のうち、被害者の供述が「客観証拠などと整合しない」とされたのが最多の17人で、「虚偽供述や記憶変容の可能性がある」(11人)、「看過しがたい変遷がある」(10人)と続いた。

 性暴力事件に詳しい杉浦ひとみ弁護士によると、密室で行われやすい性犯罪は目撃者や証拠が少ないことが多く、被害者の証言が重要になる。だが、知的障害があると一貫した説明をすることが難しく、証言が揺らぐこともある。捜査に必要な日時を正確に言えず、被害の裏付けが難しくなることもあるという。

 海外では、性犯罪処罰のなかに障害者に対する規定を設けているところもある。

 韓国やフランスでは、被害者の身体や精神に障害があることを認識して犯行に及んだ場合、罪が重くなる。ドイツやイギリスなどでは、治療や相談にあたる立場を利用した性的行為は性犯罪とみなされる。

 法務省は3月、有識者による「性犯罪に関する刑事法検討会」を設置。性暴力被害の実態を踏まえ、刑法の内容や手続きを見直すかどうか議論を続けている。性暴力ゼロをめざし啓発に取り組むNPO法人「しあわせなみだ」(東京)の中野宏美理事長は「現行法には限界がある。障害に乗じた犯罪を罰する規定を作ってほしい」と話す。(伊藤繭莉)

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