ふぐちょうちんない新世界 客待つ人力車、笑顔絶やさず

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鈴木智之
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 通天閣のたもとに広がる大阪市浪速区の新世界。ほんの1年前にひしめいていた外国人観光客の姿は、今はない。空を泳いでいた「づぼらや」の大きなふぐちょうちんも、もうない。でも、丸めがねに坊主頭の男性は変わらずそこに立つ。笑顔を絶やさず、相棒の人力車とともに――。

 「打倒浅草を掲げています。新世界を盛り上げて、人力車に乗るのをもっと当たり前にしたい」。「新世界人力車 俥天力(しゃてんりき)」を経営する国領(こくりょう)翔太さん(34)は、づぼらや前の定位置に立ち、そう話した。大阪市都島区出身で、京都の高校に進み、ラグビーに打ち込んだ。卒業後は自衛隊に2年間所属したという。

 沖縄でのライフガードの仕事を経て、求人誌で見つけたのが京都観光の人力車の「俥夫(しゃふ)」だった。高校の頃、部活で嵐山を走った時に見かけ、「かっこいい」と興味を持ったのを思い出し、応募した。

 安全を確認しながら走り、客と話す仕事は、見た目以上に大変だった。器用ではなく、研修期間も他人より長かった。2カ月で12キロやせた。でも半年経つと、客を楽しませるこの仕事にやみつきになった。

 2012年、新世界100周年の企画で土日に人力車を走らせることになり、招かれた。「あったかい、ええとこや。雰囲気も人情味も違う」。地元の人によると、新世界に人力車が走ったのは昭和初期以来のことだった。見知らぬ人に「にいちゃん元気いっぱいやなあ。代わったろか」と言われ、「これリヤカーやないんで」と答えて、笑いが起きた。「ええもん食べや」とおにぎりを置いていってくれる人もいた。嵐山ではなかった体験。「もっと大阪で働きたい」。上司に直談判し、13年から平日も新世界で営業を始めた。

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 だが、知名度はなく、京都ほ…

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