第3回患者の体は謎だらけ 理想の薬局へ、奔走する「名探偵」

有料記事薬剤師のお仕事

編集委員・中島隆
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 関西に五つの店を展開する「金太郎薬局」。そのうち、神戸にある薬局が、「ミステリー」の舞台である。

 「名探偵」は榎明子、47歳。薬剤師歴はおよそ20年である。

 榎は、地域で高齢の患者さんを大事にしたくて、10年ほど前から、こんなお願いをきいていた。

 「家に薬をもってきて」

 「ティッシュ持ってきて」

 「家のごたごた、相談に乗って」

 榎が薬剤師になったのは、親戚に医者や薬剤師が多かったから。ただ、なるからには、ありがとうと言われたくて頑張っていた。だから、人生の先輩たちに「ありがとう」と言ってもらえて、うれしかった。

 「薬剤師というよりは、近所の世話好きなおばちゃん、でした」と本人。

 つとめていた薬局が2年前、ある会社に買収され、「金太郎薬局」という名になった。その会社の社長から、薬をもっていくことは診療報酬になるんだよ、と教えてもらった。

 「へぇ~、知らなかった~」

 とはいえ、患者さんの相談相手でありつづけていた。無償のボランティアである。

身近にある薬局。そこで働く薬剤師たちの奮闘のドラマを全5回でお届けします

理想の薬局づくりへ

 金太郎薬局チェーンの社長、川野義光(36)は、榎の献身ぶりに驚いた。

 「こんなに患者さんから信頼されている薬剤師は、見たことがない」

 川野が薬剤師を志したのは、高校2年のとき。親友ががんで逝った。お葬式で、棺に眠る親友の顔を見た。鼻に大きな手術の痕。ショックだった。体を傷つけずに薬で治せたらどんなにいいだろうと思った。

 薬剤師になったけれど、志したころの熱い思いが薄れ、やめようと思ったことも。ときめくには、どうしたらいいかを考えた。薬局の経営者を目指そうと思った。

 ある薬局チェーンの新店舗を一年半で黒字化させ、自信を深めた。2017年、薬局を買収する形で経営に乗り出した。

 なぜ店の名に「金太郎」をつけているのか。まさかりという武器を持っているのに使わず、素手で動物たちと相撲のけいこをする。その潔さが好きだから。

 川野は、思っていた。

 「薬剤師は大学で6年も勉強している。もっと店の外に出て活躍するべきだ」

 そう考え、理想の薬局づくりを目指したM&A(合併・買収)をしていった。

 買収した神戸の薬局に、榎がいた。

象のように膨れあがった足

 1年ほど前のことだ。榎は、80代の女性宅に薬を届けていた。その人はパーキンソン病で、ある病院の脳神経内科にかかっていた。一度に飲む薬は十種類以上。それを榎が自宅訪問し、管理していた。

 ある日、患者の足が、象の足のようにふくれあがっていることに気がついた。顔も、おなかもむくんでいる。薬の副作用だろうか、心臓の病だろうか。

 医師を動かそうと思った。十種類以上の薬のことを調べあげたが、「薬剤師の浅知恵」と言われかねない。薬品メーカーから副作用や症例を集め、資料をぜ~んぶもって、脳神経内科の医師のところへ。医師は言った。

 「老人性のむくみ、いらんことすな」

 その患者は、内科クリニックにも行っていた。そこの医師は、つれなかった。

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 「内科的に問題はない」…

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