公約「全市民に5万円」が伝えていること

有料記事アナザーノート

写真・図版
[PR]

アナザーノート 伊藤裕香子編集委員

 クリスマスが過ぎ、年が明けても、市長が「年内にこだわる」「100%実現できる」と断言した5万円の応援給付金は、38万人の市民には届きませんでした。

 トヨタ自動車三菱自動車、関連の製造業が市内外に数多くあり、住民の所得水準は全国平均を上回る、愛知県岡崎市での話です。国は緊急事態宣言のもとで国民全員に10万円を配り、3万円の東京都品川区など、独自に現金を配った自治体もあったのですが。

ニュースレター「アナザーノート」

アナザーノートは、紙面やデジタルでは公開していないオリジナル記事をメールで先行配信する新たなスタイルのニュースレターです。今回は12月27日第18号をWEB版でお届けします。レター未登録の方は文末のリンクから無料登録できます。

 昨年10月のことです。

 「とにかく全市民おひとりに5万円お戻しします」

 市長選が始まる5日前、元国会議員の中根康浩さん(58)はこの公約を打ち出して、3期目をめざした現職(68)を破りました。

年の瀬の不安解消を貯金で?

 初登庁した10月21日、中根さんは、現金給付と年内へのこだわりを語ります。

 「もともと市民のものである税金を5万円ずつお返しし、年の瀬の不安を解消して、正月を穏やかに過ごしていただきたい」「クリスマスは家庭だんらんのひとときですので、ケーキを買って、シャンパンでも飲んで。孫にお年玉も用意できるでしょう」

 コロナ禍という緊急時の生活支援だから、市民全員を対象としていて、195億円が必要です。選挙では、前市長が計画したコンベンションホールの建設をとりやめて浮く80億円を使う、との説明でした。でも、現金として手元にはありません。

 そこで、災害などに備えて市が貯金している財政調整基金の全額を使い、五つの基金を廃止して財源をつくることにし、市議会に提案しました。廃止される基金には、保育園や小中学校など、市の建物の維持管理を目的としたものもあります。

 国が全額を借金でまかなった10万円の給付金は、どこか遠い議論に感じられても、岡崎市の5万円は、学校など自分たちのくらしと結びついています。5人の子の父親でもある市議の杉浦久直さん(44)は議会で、市の財政を家計にたとえて、市長を問いただしました。

 「市長さんは、ケーキやシャンパンを買って元気になろう、景気を回復させようと言う。でも、自分の住む家の老朽化や修理のための積み立て、子どもの将来に向けた貯金、日頃使うお金、すべてを取り崩して全員にお配りする。緊急事態といって基金を取り崩すことは果たして、適正ですか。財源のあり方も含めて、民意を得ているとお考えですか」

 市議のほとんどが反対しました。「市民サービスに与える悪影響が大きい」「未来の岡崎市民、いまの子どもたちに大きな負担を強いる」などの理由で、5万円は否決されました。

争点は5万円だけなのか

 当事者の市民の目には、どう映ったのでしょう。街で12人と話をしました。

ここから続き

 2歳の娘の母親(28)は「…

この記事は有料記事です。残り2379文字有料会員になると続きをお読みいただけます。

【お得なキャンペーン中】有料記事読み放題!スタンダードコースが今なら2カ月間月額100円!詳しくはこちら