常識覆す?開業前ユーチューブ店舗 ある寿司職人の挑戦

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岩沢志気
【動画】すし職人渡邉哲也さんの挑戦=岩沢志気撮影
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 いくつもの飲食店が閉店を余儀なくされた今年、逆風の中で高級すし店を10月、東京・渋谷にオープンした男性がいる。店を開くには集客が課題となるが、保守的な高級すし界の常識にとらわれない手法で、難題を解決しようとしている。勝機はあるのか――。

 東京・表参道駅から徒歩10分ほど、路地裏の隠れ家のような場所にそのすし店はある。12月中旬の日曜日、パリッとした調理白衣を身にまとった店主の渡邉哲也さん(32)は、いつものように白木のカウンター越しに客と向き合っていた。

 「前菜7品と握りのコースですが、苦手なものはありますか」

 渡邉さんのその一言からコースは始まった。カウンター6席ほどの店で、この日の昼は女性客がひとり。千葉県市川市から来た今村真菜美さん(31)だ。最初にナマコが供されると次は刺し身へと移り、マツカワガレイが皿に盛られた。

 カウンター越しの店主と客の会話は、すし屋の醍醐(だいご)味の一つ。自然と話題はマツカワガレイの名の由来になった。地名や松の皮など二つの説を聞き終えると、今村さんは「身がしっかりしていて、おいしいです」。一気に顔をほころばせた。

開店3時間前、ユーチューブの「仕込み」

 この店は予約客しか受けていない。しかも開店から2カ月足らず。今村さんはどうして店を知ったのか。「ユーチューブを見て気になってきました。テーブルや所作を見て、心地よいって思いましたし、信用できる感じがして」と語る。

 渡邉さんは動画配信サイトYouTube(ユーチューブ)に「銀座渡利(わたり)」というチャンネルを持ち、握りや料理を作る様子を動画で紹介している。マグロの筋の切り方、煮穴子、いくらのしょうゆ漬け……。調理の過程をすべて見せるだけでなく、食材の旬や種類、調理方法などの豆知識もふんだんに盛り込む。

 「殻はおなかに親指を入れれば簡単に外せます」

 この日の開店3時間前も動画撮影にいそしんでいた。テーマはボタンエビの握り。店内のいつも握っている場所で、手元を映した2台の定点カメラを逐一確認。優しい語り口調でポイントを解説していた。これまで月平均15本、計約120本を配信してきた。

 渡邉さんの店は渋谷といえども繁華街から遠い。昼は1万円から、夜は2万円からという高価格帯で、一見(いちげん)さんには取っつきにくいが、週6日は予約が入っている。客の3割がこの動画を見て初めての予約を入れるという。

おすし屋さん兼ユーチューバーとして渡邉さんは活躍していますが、飲食店の店主が始める普通のユーチューブチャンネルとはちょっと順番が違っているようです。さらに、このチャンネル開設をきっかけに渡邉さんに予期せぬ「転機」も訪れました。記事後半では渡邉さんのユーチューブチャンネル開設のねらいやそれに伴って生じた副産物についてお伝えします。

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