台北=石田耕一郎
新型コロナウイルスの震源地となった中国は、政府が強権的な手法も辞さず感染を封じ込めた。一方、中国との対立を抱え、民主主義が根づく台湾も感染の抑え込みに成功している。世界保健機関(WHO)も称賛する対策は、何に支えられているのか。
当局に助言する専門家チームを率いる張上淳・台湾大副学長(感染症学)は、防疫成功の理由を「初期段階で域内にウイルスを入れなかったことだ」と話す。
素早い対応の背景には、2003年に封じ込めに苦しみ、37人の死者(関連死を含めると計73人)を出した重症急性呼吸器症候群(SARS)の経験があった。台湾には当時、感染症対策を担う疾病管制署(CDC)がなかった上、中国の圧力でWHOの情報も得られず、行政の対応は後手に回った。中央の指示に地方自治体が従わず、社会も混乱した。
この反省から04年に伝染病予防法が改められ、緊急時に行政部門を横断する対策本部を設置できるようになった。対策本部には民間の不動産や医療関連物資を徴用できる権限もある。
昨年12月31日、中国・武漢で原因不明の肺炎患者が出ていると明らかになると、台湾当局はすぐに武漢からの直行便の乗客への検疫を強化。2日後、当局から頼まれた張氏はほかの専門家らと必要な検査・隔離体制などを献策し、すべて採り入れられたという。
今年1月21日、台湾で初の感染が出ると、緊張が一気に高まった。薬局にはマスクを求める行列ができ、品不足で値段も高騰した。
混乱の中で民間が動き、当局も…