第1回57歳と24歳、ある母子の死 かつお節と体温計残して

有料記事破れたセーフティーネット

諸永裕司
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 大阪のアパートで、母と息子が遺体で見つかった――。取材先でそう聞いたとき、また孤立死が起きてしまったのか。そう思った。今年の夏のことだ。

 ただ、母が生活保護を受けていたと知り、引っかかった。発見したのは市の担当職員(ケースワーカー)ではなかったと聞いた。最低限の暮らしを保障するはずのセーフティーネットが破れたということなのだろうか。

 探してみると、朝日新聞の2月23日付朝刊(大阪本社版)のテレビ欄をめくった右のページに、16行の短い記事が見つかった。活字を詰め込むように組まれた、いわゆるベタ記事に「八尾で母と長男の遺体」という見出しがついていた。

 〈22日午前11時50分ごろ、大阪府八尾市末広町3丁目のアパートで、住人の無職女性(57)と、住所・職業不詳の長男(24)が倒れているのを、訪れたケアマネジャーの男性が発見し、110番通報した。八尾署員が駆けつけたが、その場で死亡が確認された。署は、女性が介護を受けていたとみている。2人とも外傷はなく、室内に物色された様子などはないという。水道やガスが止まっており、署は2人の生活状況や死因について調べている〉(掲載当時は実名)

 読み終えて、疑問が膨らんだ。母57歳、息子24歳。いずれも働いて稼ぐことのできる年齢だ。それなのに、なぜ。どこからか「自己責任」という声が聞こえてくるような気がした。

 何が死を招いたのか。ふたりの足跡をたどりながら探ってみたいと思った。

 遺体が見つかったアパートは、近鉄大阪線久宝寺口駅から歩いて5分ほどの住宅地にあった。昼でも日が差し込まない1階の部屋。今年2月22日、ひざの悪い母の介護に訪れたケアマネジャーが、玄関の鍵が開いているのを不審に思って立ち入り、思いもかけない光景に遭遇した。母と息子は、部屋の中でL字に並んだ布団と介護ベッドの上でそれぞれ息絶えていた。

2人の死の背景を追う全4回のルポです。番外編として識者インタビューがあります。

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