経世彩民 江渕崇の目
文字通りの国難がアメリカを襲っている。新型コロナウイルスで亡くなる人が、ついに1日あたり3千人を超えた。19年前の米同時多発テロの死者は合わせて2977人。ともすればワクチンへの期待や歴史的な株高で気が緩みそうになるが、あのツインタワーの崩壊にも匹敵する惨事が、来る日も来る日も起き続けているのだ。
その危機のさなか、78歳のジョー・バイデン氏が大統領に就く。テレビが当選確実を伝えた11月7日午前11時半前。バイデン氏の得票率が87%だったニューヨーク・マンハッタンは、スタジアムの応戦席にいるかのような歓声と拍手、クラクションの音に包まれた。今春、医療関係者らに謝意を伝えるために毎夕巻き起こった「7時の拍手」と全く同じ音を、大統領選で再び聞くとは思わなかった。
ニューヨーカーたちが感極まったのは「バイデン時代の始まり」よりむしろ、「トランプ時代の終わり」に対してだろう。その日の午後、セントラルパークの様子を見に行った。芝生にレジャーシートを広げていた人々はみな晴れ晴れした表情に見えた。話を聞くと、トランプ時代の暗黒を口々にした。トランプ氏の子供じみた言動を揶揄(やゆ)する「赤ちゃんトランプ」の風船が青空に浮かんでいた。
「さえない評価」に先例
一方、この日の主役のはずのバイデン氏には、さえない評価がつきまとってきた。利害調整にはたけているが、聴衆を沸かせる弁舌やカリスマに欠け、一貫した理念が見えにくい――。しかしこの危機にあってはそれでも、いや、だからこそ、大統領にふさわしいのかもしれない。そう思わせる先例がある。
フランクリン・デラノ・ルー…
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