金メダルも、子どももあきらめたくない――。日本女子史上最多となる6度目の冬季五輪出場をめざすスノーボード女子の竹内智香さん(広島ガス)はこの秋、卵子の凍結保存を行ったことを公表した。36歳のトップアスリートの心の内とは。(吉永岳央)
冬の欧州遠征出発前。質問を重ねる記者に、竹内さんは逆に質問をぶつけてきた。
「奥さんは専業主婦ですか? 出産したのは何歳?」
共働きで33歳の時に、と答えると、ふふふと笑ってドキッとするような言葉を返してきた。
「じゃあ、奥さんに聞いてみたらいいと思う。『もし45歳でも問題なく産めるとしたら、33歳で産んでた?』って。女性は出産のリミットについて、男の人が想像するよりずっと考えているって分かると思うから」
取材をしているときの彼女は、いつでもポジティブという印象の女性だった。ただ、出産についての考えを語る姿は、初めて触れるものだった。
自らに投げかけられる言葉の変化に気づいたのは、30歳を過ぎたころだという。
「結婚しないの? 子どもはどうするつもり?って質問が、すごく増えたんです」
最初は気にしていなかった。だが、31歳、32歳……。年々、その問いかけがストレスになった。「子どもを持てる確率は年齢を重ねるごとに低くなる。そんな現実を改めて自覚する瞬間であり、出産を選ぶなら五輪を狙う選手でいられるリミットは近づいているという感覚も」
凍結を考え出したら未来が広がった
日本スノーボード界の第一人者だ。4度目の五輪となった2014年ソチ大会のパラレル大回転で銀メダルに輝くと、18年平昌大会でも5位入賞。「競技人生に満足した気持ちがあった」としばらく一線を離れた。そして今年8月になって突然、「スノーボードを仕事ではなく、子どものように楽しめるようになった」と、3季ぶりの復帰を表明した。
10月には、卵子凍結に踏み切ったことも明かした。卵子は加齢とともに劣化し、35歳を超えると妊娠率は大きく下がるとされる。自分の卵子を若いうちに採取・保存し、将来の妊娠に備える技術が卵子凍結だ。決断の背景には、09年に卵巣囊腫(のうしゅ)の手術を受けた経験が一つ。豊富な海外経験も大きい。
17歳からワールドカップ(W杯)で世界中を転戦し、23歳だった07年には拠点をスイスへ。「日本は不妊治療ですらあまり言わない文化。でも、欧州は違う。友だちと体外受精の話をするなんて普通。他にも例えば、知人が10歳の娘と食卓で交わす話のテーマは、子宮頸(けい)がんワクチンのことなど。妊娠、出産の話題はずっと身近にありました」。各国のアスリートと交流するうちに、卵子凍結は自然な形で人生の選択肢になっていった。
「おいっ子たちを見た時に『絶対に子どもは欲しい』と思ったんです。兄の子どもでこんなにかわいいならって」。本当は、五輪は34歳で迎えた平昌大会を最後にするつもりだった。「私が男なら、何も気にせず何年でも続けていると思います。でも、女性にとって年齢のリミットは避けられない」
一方で、次第に抑えきれなく…
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