宇宙でも「うまい」野口さん太鼓判 高校生開発のサバ缶

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大西明梨
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 福井のサバ缶が宇宙へ――。国際宇宙ステーション(ISS)に滞在する宇宙飛行士野口聡一さんが、福井県立若狭高校(福井県小浜市)が開発した「サバ醬油(しょうゆ)味付け缶詰」をユーチューブを通して紹介した。「素晴らしい」。宇宙から届いた絶賛の声に、14年ごしの夢をかなえた同校の教員や生徒たちは大喜びだ。

 11月27日、ISSでの活動を知ってもらおうと、野口さんが登場する「Real Life on ISS 001」と題した動画がアップされた。動画の中盤、「宇宙食の質問が多いので」と前置きし、野口さんが紹介したのがサバ缶だった。

 「特に話題の、福井県の若狭高校の高校生の皆さんが作ってくれたサバ缶です」と紹介し、「普通の缶はプシュッと汁が出てきちゃうんですけど、これは大変優秀で出てきません。ジューシーで、しょうゆがしっかり染みている感じ」と野口さん。フォークで食べたほか、身を無重力空間に浮かせてパクッといく様子も。「うまい!」

 サバ缶が宇宙へ行くのに14年かかった。若狭高に統合前の小浜水産高の実習工場で作られてきたサバ缶の製造工程が、2006年に国際的な衛生管理基準「HACCP(ハサップ)」を取得したのが始まりだ。

 ハサップは元々、米航空宇宙局(NASA)がつくった安全な宇宙食の製造基準。それを知った当時の生徒から「私たちの缶詰を宇宙に飛ばせるのでは」と声が上がり、生物資源学の小坂康之教諭(43)が「すごい夢、本当に出来たら面白い」と授業で研究を始めた。宇宙航空研究開発機構(JAXA)に協力を求め、校内でJAXAによる宇宙食の講演会を開催したり、宇宙食の担当者に試食してもらったりするなどして研究は本格化した。

 難しかったのは無重力空間での調味液の飛散の防止。校内で無重力空間をつくれず、JAXAがもつ無重力空間での料理技術のノウハウを生かした。その一つが「とろみ」だ。軟らかすぎると飛び散り、硬すぎると口当たりが悪くなる。ゼラチンなどで試行錯誤を重ね、おいしさを損なわないようにと、たどり着いたのが調味液に9%の葛粉を混ぜることだった。

 宇宙は味覚が鈍るために濃い味つけが求められる。いいあんばいを見つけるのにも苦労した。17年末から約半年間、ISSに滞在した経験がある宇宙飛行士の金井宣茂さんに味見してもらい「もっと家庭的な味に」とダメ出しされたことも。宇宙飛行士の体調を損なわないよう衛生面などのチェック項目は膨大で、宇宙食に採用してもらうためにJAXAに提出した資料は厚さ10センチ以上にもなったという。

 研究は代々、A4サイズのノートで受け継がれ、約10冊に及ぶ。関わった生徒は計約300人。そして18年11月、サバ缶はJAXAから宇宙日本食の認証を受けた。

 認証から約2年。宇宙からの動画を見た小坂教諭は「やったーという感じ。歴代の生徒の顔が浮かんだ」と笑う。「生徒たちには、自分の興味や関心から出た課題をじっくりと解決する大切さを伝えてきた。サバ缶には多くの生徒の思いが詰まっています」。歴代生徒からの喜びの連絡が鳴りやまなかったという。

 より便利でおいしい宇宙食にする研究は続く。今は主にスプーンで食べやすい軟らかさにしようと、2年生3人が全国の30~40種類のサバ缶を食べ比べるなどして実験中だ。その一人、辻村咲里さんは「野口さんの『おいしい』という言葉が聞けて安心しました。これからも研究を頑張ります」と意気込む。

 「生徒から出てくるアイデアは尽きません。サバ缶は進化中です」と小坂教諭。多くの人の思いが詰まったサバ缶は、道の駅「若狭おばま」(小浜市)で購入できる。約110グラムで2千円(税込み)。1人2缶まで購入できるが、人気のためすぐに売り切れる可能性もあるという。問い合わせは、道の駅若狭おばま(0770・56・3000)へ。(大西明梨)

 JAXAによると、宇宙食は…

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