学術会議の元副会長、任命問題に「もっと大人の発想を」

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聞き手・畑宗太郎
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 日本学術会議の会員候補6人が任命されなかった問題は発覚から2カ月が経ち、会議そのもののあり方を見直す動きも出ています。一流の科学者たちが政策を検証して政府や議会に助言する「アカデミー」。海外の状況を調査し、2003~05年に日本学術会議の副会長を務めた岸輝雄・東京大学名誉教授(81)に、いま日本の学術界が直面する課題や新型コロナの経験から学ぶべきことを聞きました。

 ――2003年に自身が中心となってまとめた海外のアカデミー43機関の調査報告書のポイントは。

 報告書がその後の日本学術会議の改革に影響したと思われるポイントは三つあります。

 一つ目は、「コ・オプテーション方式」と呼びますが、会員が会員を選ぶ方法が世界の大勢だということ。日本学術会議では以前、各学会の選挙などを経て会員を選出していましたが、2005年に会員が選ぶ方式に変更しました。それから、アカデミー内の組織割りを7部から3部に統一した点も、外国のアカデミーが部門をより大きくくくっており、学際研究がやりやすいことから導入しました。本会員の外側に通信会員や若手会員といった会員を持っているところもたくさんありました。ですから、日本学術会議が連携会員をつくることにも影響を与えました。

政府による任命拒否問題に揺れてきた学術会議。岸さんは「以前の自民党は立場の違いも受け入れた」と話します。後半部分では、その真意について説明しています。

 ――報告書では、多くのアカデミーが、会員になることが誉れとされる「栄誉機関」の機能を兼ねていることを指摘しています。

 重要な点です。世界中のほとんどのアカデミーは、栄誉機関と提言機関の両方の機能を持っています。ところが、日本では学士院が栄誉機関、学術会議が提言機関と分かれています。歴史的には、戦後まもなく一緒になった時期がありましたが、結局別になっています。

 大切なのは、誰もが認めるような栄誉機関の学者が提言するから政府も話を聞いてくれる、という意義があることではないでしょうか。学術会議自身も、かつてはある程度「栄誉だ」という気概は持っていました。04年の組織改編で2100人の連携会員を作ったことは活動の拡大とも評価できますが、一方ではその価値を薄め、「大衆化」につながってしまったのではないかと心配しています。

 ――今回の問題では政府との関係が問われています。欧米のアカデミーの多くは政府から独立した組織である一方、予算の大半は公金でまかなわれています。

 各国のアカデミーは政府機関ではなく、日本でいうところの民間組織、もしくは独立行政法人のような位置づけと思われますが、投入される政府のお金には2種類あります。一つは自動的に支払われる交付金で、人件費などに充てられるもの。もうひとつは政府の諮問への答申に対する報酬となるお金です。日本学術会議の場合は政府機関ですから、政府答申でお金は出ません。また、答申の役割は、01年に発足した総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)に移ってしまっている面があります。同会議はトップが首相であり政府、国益の立場から提言をしますが、純粋な学術の立場からの提言もとても大事だと私は考えています。

 今後のあり方を考える上では、栄誉機関の学士院、政府内のCSTIとの役割を整理していく必要があると思います。

民営化は「現状では無理」

 ――今回の問題について、海外のアカデミーとの比較ではどう見ていますか。

 会員の任命が問題になってい…

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