第1回北朝鮮の「戦略的忍耐」 金正恩氏はしたたかに実利狙う
ソウル支局長・神谷毅
初めての米朝首脳会談でトランプ大統領と会った北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長は、大統領選で民主党のバイデン前副大統領が勝利を確実にするという米国の大きな変化を、どう見守っているのだろう。
北朝鮮の関係者、韓国に住む北朝鮮の元高官や北朝鮮専門家、北朝鮮の内情を知りえる貿易関係者が私の取材に語った話をもとに、米大統領選を「北朝鮮の視線」からながめてみた。
沈黙を続ける北朝鮮メディア
北朝鮮メディアは17日時点で沈黙を続けている。ただ、北朝鮮の内情に詳しい韓国の関係者は「正恩氏の周囲には数百人の情勢分析の専門家がおり、いま彼らを含む北朝鮮の指導部全体が、誰がバイデン政権で対北外交を担うのか、つぶさに見守っている」と語る。
バイデン氏は大統領選中のテレビ討論で、正恩氏を名指しで「Thug(悪党)」などと非難したが、それにも反応していない。唯一絶対の「首領」とされる正恩氏への批判には必ず反応する北朝鮮としては異例の静かさだが、確実でないことには反応しないのもまた、北朝鮮の常だ。
だが、その間も兵器の性能向上を着々と進めているようだ。韓国の情報関係者によると、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の水中からの射出試験を行う動向が、最近も新たに捕捉されている。
そもそも北朝鮮にとっては、トランプ氏かバイデン氏かは関係ないともいえる。次の大統領が北朝鮮に対し「どう出てくるか」が重要なのであって、「誰が大統領か」なのではない。
北朝鮮の元高官がこんなヒントをくれた。「北朝鮮を分析するには北朝鮮メディアの報道が何より大事だ。金与正(キムヨジョン)・党第1副部長の7月10日の談話だよ」
改めて談話を読むと、こうある。「我々はトランプ大統領も相手にしなければいけないし、以降の米政権、ひいては米国全体を相手にしなければならない」
込められた米国へのメッセージとは何だろうか。
「トランプ氏でもバイデン氏…
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