絵と彫刻の対話は「静寂」に ダブル・サイレンス展

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田中ゑれ奈
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 静寂と沈黙の対話が生む空間は、実に雄弁だ。ベルギーを拠点に活動する美術家ミヒャエル・ボレマンスとマーク・マンダースの、美術館では世界初となる2人展「ダブル・サイレンス」が、金沢21世紀美術館で開かれている。

 マンダースが18歳の時「啓示のように」得て以来、制作に通底するのが「建物としてのセルフ・ポートレイト」という謎めいた概念。黒澤浩美チーフ・キュレーターによれば、今展はマンダースの「自画像」の世界に他者であるボレマンスの絵画を招き入れる初の試みだという。「自画像」の一部である個々の彫刻はしかし、その言葉から一般にイメージされる作家自身の容貌(ようぼう)を写したものではない。

 最初の展示室で、鑑賞者は古代の巨像を思わせるマンダースの彫刻作品「4つの黄色い縦のコンポジション」と対峙(たいじ)する。ひび割れ、周囲に土くれが散乱する崩れかけの粘土に見えるが、実は強固なブロンズ製。4体の人物像の顔に黄色い木片が垂直に打ち込まれ、静謐(せいひつ)さの中に暴力的な違和感を醸し出す。

 垂直線で頭部を分断する構図は、マンダースが美術史における1920年代に着目し、自身が当時の作家だったと仮定して「あの年代に足りないかけらを埋めるべくつくった」ものだ。「4つの黄色い縦のコンポジション」の首の角度の引用元は、15世紀の画家ピエロ・デラ・フランチェスカの壁画に描かれた女性。「2つの動かない頭部」の背中合わせの頭像はそれぞれ異なる時代の様式を感じさせ、「舞台のアンドロイド(88%に縮小)」に含まれる円筒はキリコの煙突なのだという。

 こうした西洋美術史へ向ける意識は、ゴヤやフラゴナール、ベラスケスらに影響を受けたというボレマンスにも共通する要素だ。「人間の暗部をアイロニカルに描く15世紀以降のフランドル絵画の伝統を、ボレマンスは引き継いでいる」と黒澤さんは評する。

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 その人物画のいくつかは何ら…

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