いちくん、行きましょう 相棒の盲導犬と研ぎ澄ませる耳

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大西英正
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 盲導犬や目に障害のある人に対する知識を深めてもらおうと、学校での講演活動に励む全盲の男性が秋田市にいる。いつもそばに寄り添うのは盲導犬「いち」だ。

 6日朝、佐々木達夫さん(71)が秋田市飯島の自宅を出発した。いちは、8歳のラブラドルレトリバー。秋田県内に11頭いるという盲導犬の1頭だ。一緒に暮らして6年半になる。

 「はい、いちくん、行きましょう」。慣れた手つきでハーネス(胴輪)とリードを装着させ、歩き出す。この日はバスを使って、およそ45分かけて山王地区方面へお出かけだ。まずはバス停を目指す。

 住宅街の、歩道のない道路。佐々木さんといちは道路の真ん中やや右を歩く。前方に、朝までに降った雨でできた小さな水たまりが現れた。いちは滑らかにそれをよけて佐々木さんを誘導した。

 次は前方にタクシーが見えた。いちは慎重に歩を進め、タクシーが去るのを待った。街を歩く際にはイレギュラーなことも多いと佐々木さんは言う。「住宅街の道路上で車を駐停車させる人がいる。ハザードランプが点滅していて、すぐに戻ってくるつもりだろうけど、私たちにとっては危ないんだ」

 片側2車線の道路を経て階段に来た。いちは手前の点字ブロックで止まり、佐々木さんは「階段だね。オッケー」といちに語りかける。共同作業のように進んで行く。バス停にたどり着く直前、歩道ですれ違った自転車の男子高校生は自転車から降り、会釈して歩いて通過していった。

 この日は風が強かった。「音が全てと言って良いくらい、耳を研ぎ澄ませている。雨や風が強い日は外出を控えることも多いよ」。笑顔でそう話した。

 佐々木さんが向かった先は、県心身障害者総合福祉センターの卓球場。数人の仲間と、視覚障害者の卓球「サウンドテーブルテニス」を楽しむためだ。転がってくる音の鳴るボールを打ち合って競う。佐々木さんは慣れたラケットさばきで強烈な打ち合いを披露した。

 コロナ禍で、取り巻く環境はどう変わりましたか――。「歩いていて、手をさしのべてくれる人は減りました。バス停で待つとき、適切な距離を取れなくて皆さんに戸惑われることもある。私には見えないので、積極的に話しかけてもらえればうれしいです」と、また笑顔を見せた。(大西英正)

「自分の顔を見ることもできない」

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 秋田県盲導犬使用者の会に所…

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