第8回「中国人の君は行くな」 記者を守ろうとした男の信条

有料記事トランプ王国 あれから4年

機動特派員・金成隆一

連載「トランプ王国 あれから4年」

4年前のアメリカ大統領選で、トランプに1票を投じた人に、改めて話を聞いた連載「トランプ王国 あれから4年」。8回目は、前回紹介した白人ナショナリズムを取材していた際のこぼれ話です。

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 トランプ政権が発足した後、私は白人ナショナリズムの取材を始めた。その取材の中で、今でも忘れられない出会いがあった。ここでは、その時の出会いについて動画と一緒に紹介したい。

 2017年4月29日。白人ナショナリストの団体の代表者がインタビューを受けてくれることになり、私はアパラチア山脈のど真ん中、ケンタッキー州の東部に入った。

 この日、白人ナショナリストの団体はまず、同州パイク郡のパイクビルで集会を開いた。その後、隣接するレッチャー郡の山奥の「私有地」で懇親会を開くことになっており、インタビューはそこで実施されることになった。

 懇親会ではセミナーが予定され、代表者が「国家社会主義(National Socialist)の哲学」について講義し、入会方法を説明するという。彼らは2日前から集まり、合宿中だった。

 気になったのは、会場が公共の空間から私的な空間に移ることと、その私有地がかなりの山奥にあることだ。スマホの地図には、道のない地点が表示される。トラブルが起きても警察の初動は遅くなる。アジア人の自分が1人で行っても大丈夫か。そんな懸念も頭をよぎったが、AP通信のほか、海外勢ではフランスノルウェーの報道機関からも問い合わせがあったといい、私以外にも取材に来るかもしれないという。安心材料にはなった。

 私有地へは、さらに山奥に向かう1時間ほどのドライブだ。

 スマホをカーナビ代わりに運転していると、山が深くなるにつれ、電波が不安定に。何度も道に迷い、偶然すれ違った地元ハンターにも道を聞きながら、何とか目的地に近づいた。

 舗装道路が途絶え、砂利の一本道になった。砂ぼこりを巻き上げながら走っていると、前方でダンプが真横に停車し、道を完全に封鎖していた。私は20メートルほどの距離をとって車を止めた。

 運転席の窓から白人男性が身を乗り出さんばかりの勢いで、こっちに向かって何かを叫んだ。私はトラブルに巻き込まれたことを覚悟した。車の窓を開けると、男性の言葉が聞き取れた。

 「こっちに来るな! 引き返せ! 中国人は来るな! 立ち去れ!」

 白人以外はお断り、ということか。すごい迫力だ。私は武装していると誤解されないよう上着を脱ぎ、ズボンのポケットも空にして車から降りた。白人ナショナリストの代表者とインタビューの約束があるから道を譲って欲しい、と頼むためだ。

 ゆっくりと近づくと、男性はダンプのドアを開けて話し始めた。

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 「この先に行くのはやめてお…

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