日本で生まれ、学ぶ子も ペルー一家在留を再び認めず

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玉置太郎
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 ペルーから不正入国した両親のもと、日本で生まれ育った子どもらを強制退去とした国の処分は、子どもの権利条約に反するなどとして、退去処分が決まった外国人の滞在を認める在留特別許可を国に求めた訴訟の控訴審判決が29日、大阪高裁であった。佐村浩之裁判長は処分について国の広い裁量権を認め、原告側の控訴を棄却した。原告側は上告する方針。

 訴えていたのは、大阪府に住むモレノ・ネリさん(54)と大学1年の長女(19)、高校2年の長男(17)。ネリさんと夫は1990年代、日系人を装ったパスポートで来日後、2人を出産。夫が2011年に出入国管理法違反容疑で逮捕され、一家4人に強制退去が命じられた。夫は2016年に強制送還され、残った3人は一時的に収容を免除される仮放免の状態で暮らし、子どもたちは府内の学校に通っている。

 一家は13年にも在留特別許可を求めた裁判を起こしたが敗訴が確定。姉弟が日本での生活に一層根付いたことを理由に、改めて17年に提訴していた。

 高裁判決は「確定判決で有効とされた処分は維持することが法の当然の要請」と指摘。姉弟がペルーの言語や文化になじむのが難しいとしても退去処分に従わず日本で暮らし続けた結果だとして、裁量権の逸脱はないと判断した。

敗訴の母「日本の社会に住み、勉強。どうして…」

 判決後の記者会見で、ネリさんは「子どもたちは他の子と同じように日本の社会に住んで勉強しています。どうしてこうなるの」と言葉を詰まらせた。代理人の空野佳弘弁護士は「子どもの最善の利益を主として考慮する」と定めた子どもの権利条約に触れ、「日本で生まれ育った子どもたちの送還が、本人の利益にならないことは明らか。それを理解してほしかった」と述べた。

 長女はこの日、大学の授業の合間に母親からのメールで判決を知った。取材に「裁判官にはやっぱり響かないのかなと、残念です。だけど、まだ次がある。家族でもう一度がんばります」と話した。

社会貢献へ夢 大学で簿記学ぶ長女

 「大学で学んで、将来、社会に貢献したい。何よりも、みんなと同じように日々を過ごしたいのです」。日本で生まれ育った長女(19)は今年3月の控訴審で意見陳述に立つと、落ち着いた声で訴えた。

 その言葉通りに、今春、大阪府内にある大学の経営学部に入学した。新型コロナウイルスの影響でオンラインでの講義が続いたが、先月初めてキャンパスへ通学。簿記などの勉強に励み、「裁判でよい結果が出ることを、ただ祈りながら大学に通う」と日々を過ごしてきた。

 だが、控訴審でも在留特別許可は認められなかった。母親のネリさん(54)や大阪府立高校に通う弟(17)とともに、一時的に収容を解かれるが就労は認められない「仮放免」の状態が続く。大阪府外に出るにも入管の許可が必要で、弟が今月、修学旅行へ行った際にも、ネリさんが事前に入管に許可を得た。

 働くことのできない一家の生活は、カトリック教会が運営する団体「シナピス」(大阪市)が支えてきた。4年前から3人を見守る事務局長の松浦篤子さん(57)は判決後、「この国で生まれた子どもたちを、私たちの国がここまで拒絶するとは……。言葉になりません」と語った。

 元教員の花沢光正さん(69)=堺市=は長女の中学時代の3年間、毎週自宅を訪ねて無償で勉強を教えた。今月も、高校の定期試験を控えた弟に請われ、指導に行った。「判決を聞いて子どもたちの成長をこれからも見守り続けようと、より強く思いました」(玉置太郎)

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