死にたい時は俺に電話しろ 2万人を論破、坂口恭平さん

有料記事アピタル編集長インタビュー

聞き手=アピタル編集長・岡崎明子
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 作家・建築家の坂口恭平さん(42)は、自らの携帯番号「090・8106・4666」を公表し、「死にたい」と思う人の相談にのっている。名付けて「いのっちの電話」。公表から8年間で、かけてきた人は2万人を超える。8月に「苦しい時は電話して」を出版したこともあり、コロナ禍の中、相談件数は激増しているという。なぜ、電話を受け続けるのか。

さかぐち・きょうへい 1978年、熊本県生まれ。早稲田大学理工学部で建築を学ぶ。本家の「いのちの電話」がつながらないと知り、2012年から「いのっちの電話」を始める。著書に「坂口恭平 躁鬱日記」「独立国家のつくりかた」「自分の薬をつくる」など。

 ――1日何人ぐらいから電話が?

 「以前は10人弱だったんですが、今は30人、40、50人……。8月は1日100人を超えました。月2000人近いですね。僕の活動は社会と常にシンクロしているはずなので、たぶん社会的な危機が始まっているんだと思います。8月の自殺者が増えたと報道されていますが、多分ここからもっと増えるんです」

 ――いたずらや冷やかし電話は?

 「1本もないです。たぶん、『いたずら電話したらやばい』と思われるぐらい、殺気出してやっているんで。それぐらい覚悟決めてやっているんです」

 ――四六時中、かかってきたら仕事ができないのでは。

 「もちろん、かかってきた瞬間、『電話に出たくない』と思ったら出ないで、その後に折り返します。たとえば友だちと楽しんでいるときに、出たくないじゃないですか。家族と夕飯食べているときにかかってきたら『1回切るよ』といってかけ直します。寝るときも、マナーモードにして枕元に置いておきます。電源を切ったら、相手は絶望しちゃうんで。だから完全熟睡しているときは出ません」

 ――携帯番号を公表することに、ためらいは?

 「なかったですね。もともとは2011年に福島第一原発の事故が起きて、携帯番号を公表して放射能が心配な人の相談にのったのが始まりです。僕は双極性障害そううつ病)なんですが、そのときは、そう状態で恐怖心ゼロの状態だった。でも、その活動が落ち着いた後にうつ状態になって、死にたくなって、電話に出られなくなって……。そこから復活したときに『やっぱ、死にたい人に対応しなきゃな』と思った。そういう感じですかね」

よく「念」をもらっていた

 ――そうは言っても、ずっと携帯に出続けられるのはなぜですか。

 「それは『JOY』だからですよ。8年前に始めた当時は、みんなから『念』をもらって、よく落ち込んでいたけど、今はほぼゼロ。以前は義務感とか使命感でやっていたんでしょうね」

 ――「JOY」ですか。

 「哲学ってことですよ。知る喜びということです。古代ギリシャでは、知ることの喜びを高らかに歌っているんです。新しい人と出会ったり、その人の考え方を知ったり。そして、その中で、説得するとか、論破することが大事です」

 ――「論破」ですか? 自殺予防って、「傾聴」では。

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 「だってかけてくる人はみな…

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聞き手=アピタル編集長・岡崎明子
聞き手=アピタル編集長・岡崎明子(おかざき・あきこ)
科学医療部記者。広島支局をふり出しに、科学医療部で長く勤務。おもに医療、医学分野を担当し、生殖医療、がんなどを取材。特別報道部時代は、加計学園獣医学部新設問題の取材で日本ジャーナリスト会議(JCJ)賞を受賞。オピニオン編集部デスクを経て、2020年4月からアピタル編集長。