第18回阿部詩、進化は止まらない 新技に挑戦「さらに強く」

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波戸健一
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 98キロの巨体がふわりと浮き、一回転して畳にたたきつけられた。得意の袖釣り込み腰を披露したのは、柔道女子52キロ級日本代表の阿部詩(20)だ。投げられたシドニー五輪男子100キロ級金メダリストで男子日本代表の井上康生監督(42)は「もう二度と受けたくない」と悲鳴を上げ、技の鋭さに賛辞を送った。

新型コロナウイルスの影響で延期になった東京オリンピック。突如できた1年の空白期間は、アスリートたちにどう影響するのか。担当記者が探りました。

 4日に開かれたオンライン柔道教室の一場面。約7カ月ぶりに公の場で柔道をする姿を見せた阿部は、実戦から遠ざかっていることを感じさせない精悍(せいかん)な顔つきだった。「投げる姿勢に入ったら絶対に相手を投げられる、というぐらいの自信を練習でつけてください」。カメラに向かって小学生たちに呼びかけた。

 20歳で迎えるはずだった東京五輪。延期の決定直後は、少なからず心の動揺があったようだ。「自分のプランが一気に崩れて、またイチから作り直しか、大変になるなと思った」。さらに、在籍する日体大柔道部では新型コロナウイルスの集団感染も起きた。畳の上で練習ができなかった数カ月、ひたすら近所の公園を走っていたという。

 もっと強くなるためにどうするか。阿部は過去の試合映像を見ながら「自分の新しい部分」を探したという。本人は「担ぎ技」としか明かさなかったが、関係者によると、これまでやっていなかった低い姿勢の背負い投げに挑戦。来夏の五輪に向けて、新たな武器を手に入れようとしている。

 阿部の得意技と言えば、両袖を持った状態から繰り出す袖釣り込み腰だ。本来は襟と袖を持ってかけるのが普通だが、兄の一二三(23)=パーク24=の投げ方を見て、まねて、独特の形を磨いてきた。

 ただ、この技を武器に2度も世界選手権を制しただけに、海外勢の警戒も強い。十分な組み手にさせてもらえなかったり、防御姿勢で腰を引いてきたり。昨年11月、対外国選手の連勝記録が48で止まったが、この時もフランス選手に研究されて両袖を持った攻めが封じられ、「やりにくさがあった」と涙を流した。

 そこで挑戦を決めたのが低い背負い投げ。相手が懐に潜り込まれるのを嫌がってくれれば、袖釣り込み腰や内股への警戒心が薄れる。「考えて技を出そうとすると止まってしまう。本能で出すためには、まだ完成度は4割ぐらい」。この数年で進化を遂げた寝技を生かすため、相手を畳に引きずり込むともえ投げの練習も始めた。日体大で指導する山本洋祐さんは「勤勉でストイック。まだまだ柔道の幅は広がっていく」と太鼓判を押す。

 大会への出場はまだ先だが、コロナ禍の中でできなかった出稽古も少しずつ再開した。「新しい技が一つ、二つ身につけば、さらに強くなれる」。待ち焦がれる大舞台へ、いまは技を磨く。(波戸健一)

柔道の現在地

 柔道は男女14階級のうち13階級で代表が内定している。五輪延期で再選考も検討されたが、新型コロナウイルスの影響で国際大会は軒並み中止となり、公平な条件での選び直しは困難と判断。男子73キロ級で五輪2連覇をめざす大野将平旭化成)ら13人の代表権は維持された。代表が未確定の男子66キロ級は丸山城志郎(ミキハウス)と阿部一二三(パーク24)の新旧世界王者が候補で、12月にワンマッチ形式の代表決定戦が予定されている。

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