原告側「国と東電に完全に勝利」 責任否定の流れに一石

有料記事

小手川太朗 飯島啓史
[PR]

 東京電力福島第一原発の事故から9年半余り。国が被告となった原発事故の集団訴訟で初となった高裁判決は30日、国の責任を認め、その姿勢を厳しく批判した。原告らは「潮目」と捉え、これから続く同種裁判への影響を期待する。

 「国と東電に完全に勝利した。後続の裁判に与える影響は大きい」。判決後、原告団の馬奈木(まなぎ)厳太郎弁護士は高裁の判断を評価した。

 福島第一原発事故での国の責任を巡っては、各地の地裁で判断が分かれてきた。判決が出た13地裁のうち、6地裁では福島県沖の津波地震の予見可能性を認めつつも、国が東電に安全対策を指示しても事故までに間に合わなかったなどとして、国に責任があるとは認めなかった。

 東電旧経営陣が無罪となった昨年9月の東京地裁刑事裁判では、予見可能性の根拠となった2002年の国の「長期評価」の信頼性が否定された。その後、国の責任を問うた集団訴訟の判決は4地裁で出たが、原告側が「3敗」と、国の責任も否定する流れが続いた。

 ただ今回の高裁判決は、長期評価について「合理的根拠がある科学的知見」とし、東電からの「信頼性に疑いがある」との報告を受けて津波高の試算の指示を撤回した国の態度について、「不誠実ともいえる東電の報告を唯々諾々(いいだくだく)と受け入れ、規制当局に期待される役割を果たさなかった」と批判。「原子力発電所の設置・運営は、国家のエネルギー政策に深く関わる問題」として、国も東電と同等の責任があるとした。

 群馬や千葉、京都などへの避難者による集団訴訟の審理が高裁で続いている。

 原発問題に詳しい除本理史(よけもとまさふみ)・大阪市立大教授は「仙台高裁は長期評価の信頼性を高く評価した上で国を厳しく断罪し、賠償の対象をより広く認めた。後続の裁判も、原告は同様の水準で立証している。負けが続いていた流れが、今後反転する潮目になるだろう」と指摘した。政府事故調査・検証委員会の委員長を務めた畑村洋太郎・東京大名誉教授も「見たくないデータを見なかった国と東電の姿勢を論理的に指摘する画期的な判決だ」と話した。

 一審では認めなかった避難指示が解除された地域や原発から離れた福島県会津地方宮城県栃木県の原告にも賠償範囲が拡大し、避難指示が出て「ふるさとを喪失」した地域を中心に増額もされ、賠償総額も約10億1千万円と倍増した。原告代理人の深谷拓弁護士は、昨年5月に高裁の裁判官が福島県内の被災地を視察したことを挙げ、「裁判官が実際に避難の生活実態を見て、原告の話を聞いたことの効果があった」と話した。(小手川太朗)

事故は終わったと言われるが…

 「再び国を断罪」――。30日午後2時半ごろ、仙台高裁前で原告代理人らが旗を掲げると、外で待っていた原告らから拍手や喜びの声が上がった。

ここから続き

 原告団長の中島孝さん(64…

この記事は有料記事です。残り648文字有料会員になると続きをお読みいただけます。

【お得なキャンペーン中】有料記事読み放題!スタンダードコースが今なら2カ月間月額100円!詳しくはこちら