第1回「裁判に勝ちたい」が招いた不祥事 検察改革の現状は

有料記事検察・再生への道 証拠改ざん10年

聞き手・森岡みづほ 聞き手・平賀拓哉
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 大阪地検特捜部の主任検事による証拠改ざん事件が発覚して21日で10年となった。検察はどんな姿を目指すのか。林真琴・検事総長に聞いた。

 ――証拠改ざん事件を知った時、どう思いましたか

 あの時、私は法務省人事課長だった。朝日新聞の報道で事件を知った時は、自分の足元が全部ひっくり返るような衝撃を受けた。特に、特捜部が起こした不祥事だったから、これから検察の根本を問われる時代になるんだろうなと非常に暗い気持ちになった。

 ――なぜあの事件が起きたと考えますか

 日本の検察官は従来、「刑事裁判で争う当事者」と「公益の代表者」の両方の役割を持つと言われてきた。例えば、アメリカの検察官は前者で、ドイツの検察官は後者だが、日本の検察官は両方の性格を持っている。

 検察官の不祥事が起こりやすくなるのは、「裁判に勝ちたい」という当事者意識が過剰に強くなりすぎた時だと感じる。あの事件を受けて開かれた「検察の在り方検討会議」(2010年設置)でもそういう指摘があった。

強すぎた使命感

 ――改ざん事件後、検察官たちの意識に変化はありましたか

 私も策定に関わり、「検察の理念」(11年)をつくった。検察官は、裁判官、弁護人の中では、事件の真相解明のためには、おそらく一番能動的な役割を果たす。

 それでも、検察が独善に陥らないためには「刑事司法は検察官が支えているんだ」という意識が強すぎてはだめだ。

 刑事司法は検察官、裁判官、弁護人の共同作業だと自覚することが必要だと考え、「検察の理念」の中にもそんな記載を入れた。「検察官だけが支えているわけではない」という意識は組織におおむね浸透してきた。

 ――事件後、検察改革が進み、録音・録画による取り調べの可視化なども導入された。捜査現場で変化はありましたか

 改革の中でも特に録音・録画は年間で10万件を超えている。これは検察で取り扱う身柄事件の総数にほぼ匹敵する。

 取り調べについては、常に見られているという意識が浸透し、適正な取り調べに役立っている。供述の任意性の判断、信用性の判断にも非常に役立つ。録音・録画のDVDが指導に使われ、取り調べ能力の向上にも役立っている。

 ――証拠改ざん事件後、特捜部の大型事件が減ったように見受けられます。改ざん事件が捜査の現場に何らかの影響を与えたことはありますか

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 それを判定するのはなかなか…

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