「消えたい」母は嘆きトイレで叫んだ 詐欺が残す深い傷

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高橋健次郎
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 「私は消えたい」「死にたくなる」――。今年7月、ある老夫婦が次男をかたる男らに300万円をだまし取られました。2人は事件後、後悔にさいなまれ続けています。21日は敬老の日オレオレ詐欺などの特殊詐欺の被害者の8割を占める高齢者が、同様の被害に遭わないでほしいと、被害者家族が事件の一部始終と被害者が負う心の傷を語ってくれました。高橋健次郎

以前は相手にしなかった電話に

 「皆、後悔だけが残っています。が、この経験をこのままにしてはならないと思うようになりました」。取材の始まりは、夫婦の長女から記者に寄せられたメールだった。

 長女は福祉専門職で、高齢者の詐欺被害の相談に乗ったこともあり、両親にも強く注意を促していたが、防げなかったことを後悔していた。同時に、専門職として被害を減らすことにつなげたいと連絡してくれた。以下、長女を通じて聞いた夫婦や家族の話から、事件を再現してみる。

     ◇     ◇

 始まりは1本の電話だった。

 「明日、届け物をするよ。午前10時に電話をするから」

 7月、首都圏で2人暮らしをする80代の父親、70代の母親が「次男」からの電話をとった。偽物だったことは、後にわかる。

 夫婦のもとには10年ほど前、次男をかたる人物から「痴漢で捕まった。示談金が必要」という電話がかかってきたことがある。その時は相手にせず、むしろ詐欺事件への警戒を強めた。テレビの啓発番組も見ていた。

 それでも信じてしまったのはなぜか。

 次男は、日ごろからお土産を手に実家を訪れている。母親は、次男から同じような電話を受けたこともあり、信じてしまったという。

「携帯電話は差し押さえられた」

 翌日。指定された時間に家の電話が鳴った。再び母親が取った。

 「相談があるんだけど、どこかお金を貸してくれるところはあるかな?」。このころ、本物の次男は、新型コロナウイルスの影響で勤務時間が短くなり、残業代が減ったと嘆いていた。そんなことも思い出しながら、すっかり次男と話している気になっている母親に、電話の声は続ける。

 株の投資に失敗して会計事務所から300万円を借りた。税務署の監査が入り、会計事務所の金庫に一時的にお金を戻さないといけない。プライベートの携帯電話は税務署員に差し押さえられた。これから伝える会社の携帯の番号に、お母さんの携帯から電話がほしい――。

 「サラ金(消費者金融)に手を出したら困る」。その一心で、母親は自分の携帯電話から指定された番号にかけた。

 困った様子の妻を見て、父親が電話を代わった。

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 「何してるんだ!」と叱って…

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