アウシュビッツとコロナ 歴史と向き合う日本人ガイド

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聞き手・小島弘之 平賀拓史
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 ポーランド南部にあるアウシュビッツ・ビルケナウ強制収容所跡に、ただ一人の日本人ガイドがいる。中谷剛さん(54)。戦争を知らない世代の、それも日本人が、ナチスドイツによるホロコーストの歴史を伝える――。20年以上続けるうちに、中谷さんが考えるに至った「部外者の役割」とは。

 1966年生まれ。栃木県足利市で育つ。著書に「アウシュヴィッツ博物館案内」「ホロコーストを次世代に伝える」。翻訳家としても活動。

必読書50冊 3年かけてガイドに

 アウシュビッツ・ビルケナウ収容所跡には、1年に200万人以上が訪れる。中谷さんは年2万5千人ほどの日本人の来訪者とともに、アウシュビッツと、バスで約10分の距離にあるビルケナウの両収容所を3時間かけて回り、日本語で案内している。

 ――戦後生まれの、それも日本人が、アウシュビッツで語り続ける。肩身が狭くないのですか。

 「部外者が携わっていいのか、という思いは常にあります。ホロコーストを生き抜いた生還者の話を聞くほどに、彼らの気持ちを『理解できる』とは言えない。それでも続けるうち、役割分担なのだ、と思うようになりました」

 「歴史を継承するには生還者の言葉を正確に伝えることが大切ですが、一方で、『なぜこんな悲劇が起きたのか』という理由や背景を生還者に求めるのは困難です。そこは戦争を経験していない、案外遠いところの外国人の方が、客観的に捉えられることがある」

 ――どういうことですか。

 「例えば、アウシュビッツにはヒトラーの写真は一枚もありません。私は、なぜだと思いますか?と問いかけます。彼一人が起こしたことではないから、です。また、世界恐慌後に苦境に陥ったドイツの街角で『害虫、ユダヤ人は出て行け』というヘイトスピーチが始まった、と話します。その十数年後に一体何が起きたのか? 聞く人は『同じような状況はいま、私たちの身近にはないだろうか』と考えるかもしれません」

 「コロナ禍の今、水を得た魚のように排他的になる人がいる。一方ですごく良心的な人もいる。スペイン風邪の流行から大戦に至る歴史の中にもあった状況です。この力関係で、大事なのは大多数の傍観者がどう振る舞うか。歴史から何かを考え、少なからず行動する人を育てていくのはアウシュビッツの役割でもあると思います」

 ――日本で育ち、就職もしたのになぜ25歳で突然ポーランドに?

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 「大学を卒業して、医療用ベ…

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