BTS、全米1位の理由 マッチョでワイルドからの変化

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半田尚子
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 「21世紀のビートルズ」と称される韓国出身の7人組人気アイドルグループ「BTS」が、今夏、快挙を成し遂げました。8月21日に発売した新曲「Dynamite(ダイナマイト)」が、韓国人アーティストとして初めて米ビルボード・シングルチャートの1位に輝いたのです。アジア出身歌手でみても、ビルボード・シングルチャートで1位を獲得したのは坂本九さんの「上を向いて歩こう(SUKIYAKI)」以来、57年ぶり。BTSが偉業を達成した理由を、専門家に分析してもらいました。

 慶応大教授で、現在はハーバード・イェンチン研究所の客員研究員も兼ねる大和田俊之さん(アメリカ文化)は、自身も大のBTSファン。以前、BTSのリーダーのRMさんが独学で身につけた英語で、アメリカの人気テレビ番組の司会者と堂々とかけあう動画を見て、「会話の反射神経がすごい」と感心したそうです。

 ――BTSのビルボード・シングルチャート1位はどのくらいすごいことですか?

 ビルボードはアメリカでの真の人気を測るランキングです。アメリカでのBTS人気は紛れもなく本物です。ビルボードのシングルチャートは、①CDやデジタルダウンロードの売り上げ、②ラジオのオンエア回数、③音楽ストリーミングサービスでの再生回数、④YouTubeなど動画サイトでの再生回数、などを細かに集計して決めるので、人々が肌で感じる実際の流行を反映していると評価されています。

 ――なぜBTSがアメリカで受け入れられたと思いますか?

 アメリカ社会でアジア系男性に対するステレオタイプ(単純化されて固定化されたイメージ)が変化していることが影響していると思います。1980年代以降、アメリカでは黒人やヒスパニックなどの少数派の人口が増え、多文化主義が進みました。その波はエンターテインメント業界にも広がり、ドラマや映画でアジア系俳優の活躍も目立ち始めました。

牛乳ごくごくに「かわいい男の子感」

 特に、高校の合唱部が舞台の大人気ドラマ「glee(グリー)」の影響は大きいです。このドラマは2009年から15年にかけて放送されました。登場人物の中に、マイク・チャンという名のアジア系の男子学生がいます。ダンスが得意という設定で、キレッキレのダンスを披露する姿がアメリカ中に流れました。この結果、「アジア人男性=カンフー」という見方は消え、代わりに「アジア人男性=ダンスが上手でかっこいい」という見方が定着しました。

 10年代になると、アメリカではダンスオーディション番組が流行しました。そこでも、アジア系男性が活躍しました。BTSの売りはハイレベルなダンスパフォーマンスです。BTSがデビューした13年までに、彼らがアメリカでヒットする下地はすでに整っていたのです。一昔前まで、アジア系の男性に黄色い声援が飛ぶことはアメリカではありえませんでした。このことを考えると、アメリカでのBTS人気は本当にすごいことです。

 また、メンバーが醸し出す「繊細さ」も、アメリカで受け入れられた理由の一つです。アメリカ社会では長く「マッチョ(がっちりした体格)でちょっとワイルドな白人男性がかっこいい」とされてきました。ですが、価値観が多様化し、かっこいい男性像は見直されています。

 BTSのメンバーは体の線が細く、「マッチョでワイルド」とは一線を画しています。新曲「Dynamite」のミュージックビデオは、全体を通してパステルカラーを使ったやわらかい色調です。冒頭、メンバーのJUNGKOOKさんがコップに注がれた牛乳をごくごく飲むシーンから始まるのも、印象に残ります。こうした要素は、かっこいいよりも「かわいい男の子感」を意識したもので、「マッチョでワイルド」じゃない魅力を求める人々にぴったりはまったと思います。

BTSはトランプ大統領が象徴する旧来の価値観にあらがうことで支持を得たと分析する大和田教授。記事の後半では、韓国出身の金成玟・北海道大准教授が、K-POPの底力について論評します。

 ――メンバー自身の魅力につ…

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