「世界最強」のスパイ機関 元トップが明かす極秘外交
世界を驚かせた、イスラエルとアラブ首長国連邦(UAE)の国交正常化。その実現に向けて、水面下で暗躍してきたとされる組織がある。「世界最強」ともいわれるイスラエルの情報機関「モサド」だ。敵対するアラブ諸国との秘密外交の実態は――。元長官が舞台裏の一端を明かした。(エルサレム=高野遼)
1990年代にモサド長官や首相秘書官(軍事担当)を務めたダニー・ヤトム氏(75)が、取材に応じた。94年に和平条約を結ぶまで、イスラエルは隣国ヨルダンとの間で国交がなかった。ヤトム氏はヨルダンとの和平に向け、極秘で進めていた交渉の経緯を知る数少ない人物の一人だ。
暗闇のなか、ヨットで隣国へ
94年の初頭、イスラエルのラビン首相の元へモサド幹部が訪れた。「フセイン国王との会談を設定しました」。ヨルダンの国王との極秘会談の知らせだった。
会談の当日、ラビン首相は通常通りに執務時間を終えると、官邸を後にした。帰路、ひそかに途中で車を乗り換え、空港へ。モサドが用意したプライベートジェットでイスラエル南部のエイラートに飛んだ。
エイラートからは、アカバ湾の対岸に渡ればヨルダンだ。ラビン首相は秘書官だったヤトム氏とモサド高官の2人だけを連れ、ヨットに。暗闇の中、海面を進む。海上で待ち合わせたヨルダン側のヨットに飛び移り、港に着くと、フセイン国王が自ら待っていた。
会談場所にいたのは限られた…
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