総裁選、分かれる外交政策 継承?誠実?ソフトパワー?

自民党総裁選2020

津阪直樹 北見英城 松山尚幹 安倍龍太郎 西村圭史
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 次の首相を決めることになる自民党総裁選に、石破茂元幹事長、菅義偉官房長官岸田文雄政調会長の3氏が立候補した。新首相は直ちに、新型コロナウイルス対策や経済再生、外交・安全保障など山積する課題に直面することになる。3氏の主な主張をまとめた。

 新型コロナウイルスによる経済の落ち込みが続く中での総裁選となったことで、3氏とも最優先課題に掲げたのは、感染対策と経済の両立だった。

 コロナ対策では、菅氏は現政権の方針を引き継ぎ、「来年前半までに全国民分のワクチン確保」を強調。政府の需要喚起策である「Go To キャンペーン」をいっそう進め、観光業も支援していく考えだ。

 石破氏は、強制力がないと指摘される新型ウイルスのための特別措置法について「感染を早期に収束させるために改正を考えるべきだ」と主張。収束後に検討するとしてきた現政権との違いを強調した。岸田氏は、冬に感染が拡大するインフルエンザ対策を強化するため、ワクチンの無料接種も訴えている。

 経済政策では、菅氏は、規制改革や競争強化を重視した主張が多い。実績として縦割り行政の打破や携帯電話料金の引き下げなどを挙げ、コロナ禍で遅れが明らかになったIT政策の司令塔として「デジタル庁」の創設を掲げる。地方銀行の再編も示唆している。8日の演説会では「既得権益を取り払い、競争がしっかり働くようにさらに改革を徹底したい」と訴えた。

 石破氏、岸田氏は、菅氏との違いを出すため、格差の是正を重視する。

 石破氏は東京への一極集中の改善を強調。新しい資本主義を訴え、「地方、農林水産業、女性、サービス業の力を引き出さなければならない」と述べた。岸田氏は「人に優しい持続可能な資本主義」を掲げた。教育費や住宅費の負担軽減をはかり、中間層を支援していく考えを示している。ただ、いずれも具体策に乏しく、十分に対抗軸を示せていない。(津阪直樹)

拉致問題、アジア外交、核軍縮

 外交・安全保障政策では日米同盟を基軸とする点に変わりはないが、力点を置く部分から違いがみえる。

 菅氏は安倍政権がめざした「戦後外交の総決算」を継承する。なかでも拉致問題の解決を優先課題として挙げる一方、政策パンフレットや8日の所見発表では、北方領土をめぐる日ロ平和条約交渉には触れなかった。「中国をはじめとする近隣国と安定的な関係を構築する」と中国のみを名指ししているのも特徴だ。

 石破氏は「アジアと歴史に誠実に向き合う外交」として、中国・韓国・北朝鮮を挙げつつ「近隣諸国をはじめとするアジア諸国との信頼関係の構築」をめざす。拉致問題の解決に向けて、東京と平壌に連絡所を開くことも持論だ。安倍政権で事実上の2島返還にかじを切った北方領土交渉では「4島返還を譲るべきでない」と違いを強調する。

 安倍政権で外相を務めた岸田氏は「安倍外交」を評価したうえで、科学技術や文化芸術など「ソフトパワー」を活用した外交や多国間外交の重視を掲げる。被爆地・広島が地元なだけに、核軍縮に向けて「現実的な取り組み」を積み重ねていきたい、とも語る。

 憲法改正について、菅氏は「しっかり挑戦していきたい」としつつも、「スケジュールありきではない」と述べ、2020年の新憲法施行をめざすとした安倍晋三首相との違いをにじませる。石破氏は安倍氏のもとでまとめられた9条への自衛隊明記など「改憲4項目」ではなく、12年に党がまとめた憲法改正草案をもとに議論すべきだと主張。岸田氏は4項目を基本に議論を進めるとしつつも「国民にしっかり考えてもらう機会を増やすことが王道だ」としている。(北見英城)

候補者の横顔は

 自民党総裁選に立候補を届け出た3氏は、どんな人なのか。経歴やその人柄に迫った。

石破茂元幹事長 田中角栄氏に背中押され政治家に

 鳥取県八頭郡出身で、鳥取大学教育学部付属中学、慶応義塾高校、慶応大を卒業。鳥取県知事や参院議員などを務めた父・二朗氏からは「(政治家は)お前みたいな人のいいやつに務まる仕事じゃない」と言われたという。旧三井銀行に入行した。

 二朗氏の死後、二朗氏と親交が深かった田中角栄元首相に背中を押されて、政治家の道へ。田中派の職員を経て、86年に初当選。93年、宮沢内閣の不信任決議案に賛成した。無所属で衆院選を戦い、後に離党。新生党新進党に所属した。

 97年、自民に復党し、2002年に防衛庁長官で初入閣。その後、防衛相、農林水産相を務めた。

 「師」と仰ぐ田中氏から受けた「選挙は歩いた家の数、握った手の数しか票は出ない」との教えを選挙哲学とする。

 08年、12年の党総裁選に立候補。第2次安倍政権では幹事長、地方創生相を務め、15年9月に「水月会」(石破派)を旗揚げした。安倍晋三首相との一騎打ちになった18年の総裁選では、45%の地方票を獲得し、存在感を示した。

 キャンディーズなど70年代アイドルに一家言持ち、クラシック音楽も好む。(松山尚幹)

菅義偉官房長官 安倍1強を築いた仕事師

 秋田県雄勝町(現湯沢市)出身。実家の農業は継がず、高校卒業後に家出同然で上京した。町工場に住み込みで働き、苦学して法政大を卒業した。

 「世の中を動かしているのは政治だ」と思い、通産相を務めた小此木彦三郎氏の秘書に。横浜市議を2期務め、1996年の衆院選で初当選。閣僚や党幹部らに世襲議員が多い中、珍しい「たたき上げ」だ。

 第1次安倍内閣総務相に起用され、ふるさと納税を提唱した。安倍晋三首相とは北朝鮮をめぐる「拉致議連」を通じて懇意に。12年の総裁選では「もう一度、総理大臣にしたい」と、安倍氏を担ぎ出し、再登板を実現。自らは危機管理を担う官房長官に就いた。

 霞が関人事の掌握に注力し、信頼する幹部を重用する一方、意に沿わなければ容赦なく交代させる手法で、官邸主導の「安倍1強」を築いた。自他ともに認める「仕事師」。特に力を注ぐ農産品の輸出や観光施策は、官僚らから「スガ案件」と言われてきた。

 酒は飲まず、大の甘党。毎朝40分の散歩が日課だが、いつでも官邸に駆けつけられるよう、常にスーツを着用している。(安倍龍太郎)

岸田文雄政調会長 ポスト安倍目指し政調会長に

 東京生まれ。祖父・正記氏、父・文武氏も衆院議員だった。旧通産省職員だった文武氏の出向で米ニューヨークに住み、帰国後は開成高から早稲田大へ。日本長期信用銀行(当時)に就職した。文武氏の秘書を経て、1993年に初当選。安倍晋三首相とは当選同期だ。

 2007年、第1次安倍政権で沖縄・北方担当相で初入閣。12年の第2次安倍政権で外相になり、4年7カ月務め、オバマ米大統領(当時)の広島訪問などの成果を残した。

 12年に党内の伝統派閥・宏池会の会長を引き継いだ。宮沢喜一元首相以来、27年ぶりの宏池会からの首相を目指す。

 17年には「ポスト安倍」を目指して安倍首相(党総裁)に党の要職への起用を希望し、政調会長に就任。18年の総裁選では派閥内で期待された出馬を見送り、首相3選を支持。「優柔不断」などと批判も浴びた。

 堅実で目立つことを好まず、元高校球児であることから「8番セカンド」と例えられたことも。酒豪で知られ、外相時代にはロシアのラブロフ外相とウォッカを飲み比べながら会談した逸話が残る。広島カープの大ファンでもある。(西村圭史)

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