「家や車、一生買えぬ」 据え置きの最低賃金に異議殺到

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榊原謙
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 「今年は最低賃金を引き上げない」。そう結論づけた7都道府県の一つ、東京の最低賃金審議会には、再考を求める「異議」の申し立てが前年の5倍以上も寄せられました。「貧困で苦しい」「新型コロナウイルス下で低賃金で働く人に報いて」などの切実な声が殺到したのです。異議を受けた審議会は、こうした声にどう向き合い、どんな結論を出したのでしょうか。

「少し高いお肉なんて」

 「うつ病の原因になった長時間労働は、最低賃金が今より高かったら、しなくてすんだことです。どうか最低賃金引き上げ凍結を撤回してください」(50代、非正規労働者)

 「昼間は不動産屋で働いていますが最低賃金です。消費税も上がり、家計が圧迫されているのに、見合った給料がもらえません」(40代、ダブルワーカー)

 「保育士は国家資格なのに、子どもたちの命を守っているというのに、(賃金が)低いです。最低賃金で働かされている人たちが、どれだけいるでしょうか。貧困で苦しい人がほとんどだと思います」(20代、非正規保育士)

 「私は両親のように家を建てたり車を買ったり、休日に少し高いお肉を買ったりなんてことは、一生できないのだろうなと思っています」(20代、非正規労働者)

 最低賃金の大幅引き上げを訴える市民団体「エキタス」には8月、こうした切実な声が170人から届いた。労働者側と使用者側の委員、そして大学教授ら中立の公益委員でつくる「東京地方最低賃金審議会」が8月5日、新型コロナ禍で企業経営が打撃を受けていることなどを背景に、今年は東京の最低賃金は引き上げずに据え置くよう、東京労働局長に答申したからだ。

 エキタスは同19日、集まった意見を東京労働局に提出。「最低賃金の引き上げ凍結は、労働者の生活のリアルを無視している」と、審議のやり直しを求める「異議」を申し立てた。

 東京労働局によると、今年の審議会の答申に対する異議申し立ては66件。前年の12件を大きく上回った。一般市民やエキタスなどの団体に加え、医療や建設、交通、銀行など、新型コロナ禍のなかでも出勤せざるを得ない「エッセンシャルワーカー」と呼ばれる働き手の労働組合からも申し立てが相次いだ。

 苦しい生活の働き手に少しでも報いるべきだとの意見に加え、コロナ禍でも大幅に最低賃金を上げている国があるとの指摘や、最低賃金の引き上げは個人消費の下支えになり、経済にプラスに働くと説くものもあった。

労働側の委員「一日たりとも忘れずに」

 答申に対する異議の申し立てを受けて、8月21日に開かれた審議会。冒頭、事務局を務める東京労働局の職員が約45分にわたり、寄せられた異議の趣旨や代表的な声などを読み上げた。その上で、会長の都留康・一橋大名誉教授が、委員に意見を尋ねた。

 求めてきた「据え置き」が答…

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