「うば捨て山」に送られる高齢者 快適なのに止まらぬ涙

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上田学 編集委員・真鍋弘樹
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 人口減少と高齢化の大波が迫る首都圏。「老いの一極集中」が待ち構える東京の限界状況を報告する。

 玄関に入ると、足元に入れ歯が置かれていた。コップ代わりらしい即席麺のカップには茶色い水がたまっている。自力でトイレに行こうとして、服や布団はたびたび便まみれになった。

 看護師の織田忍さんは昨年11月、膀胱(ぼうこう)がんを患った84歳の独居男性を在宅でみとった。それまで居室に2年半、週2回通って看護をした。染め物職人だった男性は、生活に困窮して家族との関係も切れていた。

 訪問看護ステーション・コスモスは東京都台東区の通称山谷(さんや)地区にある。「日雇いの町」で知られるが、今は貧困で身よりのない高齢者が多く住み、「都会の限界集落」とも言われる。

 ある70代の男性は盛夏、部屋で独り亡くなっていた。強い異臭がするのに隣室の人の気配がない。救急隊員が確認したところ、その部屋の住人もまた孤独死していた。犬、猫の死骸とともに2年間、気付かれなかったケースもあった。

 さらに新型コロナの感染拡大で訪問看護は細心の注意が必要になった。ウイルスは、過密と高齢化という東京の弱い環(わ)を狙い撃ちしたかのようだ。

 山谷の風景は、格差と超高齢化が同時に進む首都圏の未来予想図である。全国から多くの人を吸い寄せ、少子化で若年層を減らした東京は、近い将来、高齢者の急増に見舞われる。

 2015年に301万人だった都内の高齢者は、都推計で40年に394万人となり、その10年後には419万人とピークを迎える。特に団塊ジュニア世代非正規雇用率が高く、低収入で単身のまま高齢化する人が増える恐れがある。

 コスモス代表の山下真実子さんは言う。「朝起きたら亡くなっていたということも多く、日々、救急車が行き交っている。こんな風景がいずれ、東京全体に広がるのでしょうか」

「老いの一極集中」が待ち構える東京。都外の施設へ送りだされる高齢者は、もはや生活困窮者だけではありません。記事後半では、都外の施設に入居した人たちのお話を紹介します。

貧困高齢者、都外の施設へ

 首都圏における高齢者の激増は何をもたらすのか。「すさまじい勢いで高齢者の大波が押し寄せており、それも団塊世代によって85歳以上が急増する。あと20年が正念場です」と元厚生労働事務次官の辻哲夫・東京大学客員研究員は言う。

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 「高齢者の一人暮らしを前提…

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