第3回強固だった伝統的家族観 「子どもの貧困を救え」が風穴

有料記事シングルマザーと永田町

編集委員・秋山訓子
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 新しい税制を実現するためには、ある人たちの理解を得なければいけない。自民党税制調査会(党税調)の幹部会「インナー」のメンバーたちだ。7月、インナーの一員で衆院議員の野田毅に議員会館の一室で会った。

 「僕は政治生命をかけて一貫して売上税や消費税を主張してきた。最初は反対がすさまじくてね、選挙区の公園にワラ人形を作られたこともあったよ。釘を打ち込まれてね」

 野田はこう振り返った。旧大蔵省を経て1972年の初当選以来、一貫して税制畑を歩む。「君は大蔵省出身なんだから、税をやりなさい」と、先輩議員の竹下登に声をかけられたのがきっかけだ。その竹下は後に首相になり、消費税導入を実現する。

 党税調会長を経て、今は最高顧問。税制を実質的に決めるインナーの一員であり続ける。そんな野田が、未婚のひとり親を支援する「寡婦控除」の拡充をめぐって議論をしたことがあった。

シングルマザーと永田町 女たちの税制革命

今年の年末調整から、「未婚の寡婦(夫)控除」が実現します。背景には市民団体と国会議員がタッグを組んだ女性たちの取り組みがありました。彼女たちがどう動き、税調幹部や財務省がどう動かされていったのか。7回連載でお伝えします。今回は第3回です。

ひとり親控除=事実婚の推奨?

 一昨年、2018年のことだ。

 その日も、インナーではさまざまな意見が交わされていた。

 「もし私が未婚の1人親の立場だったら、国を訴えます。そしたら国は負けますよ」

 衆院議員の塩崎恭久が、未婚の寡婦控除を実現すべきだと強く主張した。塩崎は官房長官や厚生労働相を歴任してきた政策通として知られる。

 出席者の中でただ一人、衆院議員の細田博之だけが「君の言っていることが正しいよ」と同調した。細田は首相安倍晋三の出身派閥を率いる。旧通商産業省出身で官房長官の経験もあるベテランだ。

 これに対し、野田は強く反論した。「事実婚を奨励することになる」と指摘。同席していた財務省主税局の担当者も「事実婚を私たちに探し出せと言うんでしょうか。実務的にできません」と譲らなかった。

 野田や主税局の言い分は、未婚の寡婦控除を認めれば、控除ほしさに結婚せず事実婚を選ぶカップルが増えるのではないかというのだ。塩崎は「それは本質じゃない。不届き者は法律に書いて罰せばいい」と反論したが、議論は平行線だった。

 この年の税制改正案のとりまとめでは、連立相手の公明党が未婚の寡婦控除を主張したため、落としどころが探られた。ただ、自民党税調のインナーで決まらなかったものを盛り込むわけにはいかない。結局、所得税には踏み込まず、住民税を軽減し、さらに1万7500円の手当を支給することで決着した。

税調の力の源泉は

 なぜ党税調、そしてインナーはこれほどの力を持っているのか。

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 税調にはもう一つ、政府の中…

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