モーリシャスの20年後、ナホトカ号事故の研究者が警告

有料記事今さら聞けない世界

聞き手・半田尚子
[PR]

 インド洋の島国モーリシャスで日本企業の大型貨物船が座礁し、今月6日には周囲の海に積んでいた燃料油が流出しました。漏れ出した燃料油は約1千トン。流出した油はサンゴ礁やマングローブ林など豊かな自然が広がる海域に広がり、モーリシャスは環境非常事態宣言を出しました。生態系への影響は「この先何年も続く」とも指摘されています。

 事故の後、海は元の姿を取り戻すことができるのでしょうか。1997年、日本海沖で座礁したロシアのタンカー・ナホトカ号の事故では約6200トンの重油が流出しました。金沢大学の田崎和江名誉教授(地球環境学)は事故発生の翌日から漂着した重油の回収や分析を続けてきました。田崎教授は、「20年以上経っても能登半島の海岸には重油の成分が残っています」と言います。

――23年前、ナホトカ号の事故の際に現場に行かれたそうですが、どのような様子でしたか?

 ナホトカ号の事故の知らせを受けてすぐ、地元の新聞記者と一緒に能登半島の海岸へと向かいました。まだ日が昇る前に現場に到着すると、何かがおかしい。波が打ち寄せるバシャーン、バシャーンという音がしないんです。耳を澄ますと、ウォーン、ウォーンという音がしました。明るくなってよく見ると、海が厚さ約30センチの重油に覆われていて、その音は油の下で波がうごめく音だったんです。

 今でもその海岸のにおいも思い出せます。磯の香りは全くしなくて、空気を吸うと、鼻だけじゃなく、口の中まで重油臭さでいっぱいになりました。

――沖合で流出した油はどのように広がっていくのでしょうか?

 流出した油は、海流にのってまず海の表面に漂いながら拡散していきます。水にはほとんど溶けません。

――今回の事故の報道を見ていると、「流出した油の半分近くを回収した」という報道もあります。

 この場合、海の表面に漂う油を半分近く取り切ったという意味だと思います。忘れてはいけないのは、海の底に沈む油もあるということです。

 流出した油を100%除去することはできません。海に漂う油は時間が経つと、かんだ後のガムのような状態になります。海に漂うゴミや海藻、貝などを吸着し、流出した油の10倍近い体積になります。見た目はチョコレートムースのような状態です。色んなものを吸着すると比重が増し、だんだん海の底の方へ沈んでいきます。海の底に沈んでしまうと、回収のすべはありません。

 モーリシャスではサンゴ礁への被害が懸念されていますが、油が沈み、サンゴにこびりつけば、ひとたまりもないでしょう。

 ナホトカ号の事故の発生直後…

この記事は有料記事です。残り1620文字有料会員になると続きをお読みいただけます。

※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません