記録的豪雨による水害で14人が犠牲になった特別養護老人ホーム「千寿(せんじゅ)園」(熊本県球磨(くま)村)が再開を断念し、地域福祉に影を落としている。周辺の高齢者施設も軒並み浸水し、行き場を失った入所者もいる。被災からまもなく1カ月。入所者の体調が悪化し、家族の負担が増すことを懸念する声も出はじめた。
球磨村渡(わたり)に住む舟戸昇さん(69)の母アサノさん(95)は、8月から千寿園に短期入所する予定だった。脳梗塞(こうそく)とてんかんと診断され、右手足が動かず、言葉が思うように出ない。
2年前、「56人待ち」と言われた園の4人部屋を申し込んでいた。昇さんは再開断念のニュースに肩を落とす。「できれば再開してほしかった」
雨が降り続いていた7月3日夜、アサノさんは園の隣にある系列施設にいた。昇さんと妻(70)が身の回りの世話をしてきたが、アサノさんが何度も転倒するようになり、目が離せなくなった。施設なら夜間も複数の職員が様子を見てくれる。そう考え、宿泊利用をした初日だった。
豪雨で球磨川やその支流が氾濫(はんらん)し、園が浸水した4日朝、駆けつけた昇さんは、救助されて車いすに乗っているアサノさんと再会した。園では入所者14人が亡くなり、生き延びた51人は村外の病院に搬送された。
球磨村によると、51人のうち44人は家族が引き取ったり、別の施設への入所が決まったりした。だが、7人はまだ受け入れ先が見つかっていない。最初の搬送先から約100キロ離れた熊本市内の病院へ転院せざるを得なかった人もいるという。
村の担当者は「本人も家族も負担が大きい。高齢者はストレスで認知機能が低下することもあり得るので心配」と話す。千寿園は、高齢化率が44・8%の球磨村で唯一の特別養護老人ホーム。定員70人に対し、50人ほどが入所を待っていた。村によると、この50人についても入所先を探す必要がある。入所者や家族は住み慣れた地域に近い施設を希望しているという。
だが、隣接する芦北町で10施設、人吉市で9施設が浸水するなど球磨川流域の5市町村で計27施設が被災。受け入れ調整は難航が続く。
芦北町の特別養護老人ホーム…
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