武沢昌英
青森市に暮らし、街の人たちを取材していると、1年が「ねぶた」を中心に回っていると感じる。その青森ねぶた祭が今夏、新型コロナウイルスの影響で初めて中止となった。実行委員長の奈良秀則さん(62)にいまの思いを聞いた。(武沢昌英)
7月中旬、短い夏を迎えた青森の風景がいつもと違う。例年なら8月初旬の祭りを前に、青森港そばの広場にねぶたの制作小屋が立ち並び、活気があふれる。今年はその広場はひっそり静まりかえり、お囃子(はやし)を練習する笛や鉦(かね)の音もない。
「ねぶたのない夏、という感傷のようなものはないんです」と奈良さん。「今年はやらないと、私が決めた本人ですから」
青森に赴任した2年前の夏、初めてねぶた祭を取材した。任地でさまざまな祭りを見てきたが、今にも動き出しそうなねぶたの目の迫力は圧倒的だった。「ラッセラー、ラッセラー」のかけ声と心地よいお囃子は、夜が更けても頭の中で響き続けた。
ただ言われてみれば、時に体をぶつけ合うように跳ねるハネトも、沿道にひしめく見物人も、密集、密接の最たるもの。
「見る人は密で、ハネトは汗だく。みんなが『ラッセラー』と大声を出し続ける。マスクなんてしていたら、暑くて耐えられません」と奈良さん。
新型コロナは当初、「対岸の火事」と感じていたという。だが東京五輪の延期が決まり、「緊急事態」などの言葉が飛び交うように。終息が見通せない中、国内外の280万人が訪れる祭りで、すべての参加者と観覧者の安全を確保するのは不可能に近い。3月末、安倍晋三首相が「長期戦を覚悟していただく必要がある」と話すのをテレビで見て、覚悟を決めた。
4月に入ると、祭りの準備が本格化する。決定が遅くなるほど、影響は大きくなる。だが、全国の夏祭りでいち早く中止を表明した理由は、別にあった。
「青森ねぶた祭のプライドです。他の祭りがやめたから我々もやめる、じゃだめ。青森ねぶた祭がどうするのか、全国の祭りの関係者が注目している。我々が決断しなければ、という強い思いがありました」
4月8日、奈良さんは記者会見…