下克上、武士道…戦意への自己暗示、日本軍の誤算に

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聞き手 天野みすず 編集委員・永井靖二
【動画】インタビューに答えるスチュアート・ゴールドマン氏
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 米国の歴史家、スチュアート・ゴールドマン氏は、ノモンハン事件の裏側で繰り広げられた欧州の外交戦に焦点を当てた研究で知られる。日本軍は気づかないまま、第2次世界大戦のスイッチを押す役割を演じてしまったのだと指摘する。

 スチュアート・ゴールドマン(Stuart Goldman)氏 1943年生まれ、77歳。米国の歴史家。ジョージタウン大学で歴史学の博士号を取得。日本での滞在・研究などを経て、1979年から30年間、米国議会図書館議会調査局の専門調査員としてロシア・ユーラシア地域の政治・軍事情勢の研究に携わった。現在、ワシントンにある全米ユーラシア・東ヨーロッパ研究評議会の在外教授。著書に「ノモンハン1939 第二次世界大戦の知られざる始点」など。

 ――ノモンハン事件に興味を持ったきっかけは

 22歳の大学院生だった頃、英国の歴史家アラン・クラークによる独ソ戦についての名著『バルバロッサ』を読みました。その脚注に、ソ連を勝利に導いた将軍の一人ジューコフが、1939年に日本軍と大規模な戦闘をしたとありました。翌年、私は近代欧州外交史のセミナーで発表することになり、テーマにノモンハンと【独ソ不可侵条約】の関係を選びました。当時のソ連は、宣戦布告はないが重要な戦いを日本としていたのに、日本と【防共協定】を取り交わしていたドイツと不可侵条約を結んだのです。何か関連があるのではないかと直感しました。以後何年もこのテーマを追いかけています。

 ――ノモンハン事件を「第2次世界大戦の導火線」と位置づけていますね

 ノモンハン事件は、へき地で戦われた知名度の低い紛争です。しかしこれが、欧州で起きた第2次大戦に関わるあらゆる出来事の「導火線」となったのは事実です。

 その夏、欧州は一触即発の情勢でした。ポーランドにダンツィヒ(現グダニスク)の割譲を求めるヒトラーと、それに対抗する英仏の対立が強まり、スターリンは双方から提携を求められました。英仏と同盟を結べば、ドイツと戦わねばならない。そうすれば、ドイツと防共協定を結んでいる日本は背後で攻勢を強めることでしょう。一方、ヒトラーと何らかの合意ができれば、英仏がドイツと戦い、さらに日本を孤立させられる。スターリンが選んだのは後者でした。

 ドイツと同盟に向けた交渉を進める間にスターリンはジューコフ司令官に総攻撃を指示し、ジューコフはノモンハンで関東軍をたたきます。日本は軍事的にも政治的にも敗北を喫したのです。そして、ヒトラーはポーランドへ侵攻し、第2次大戦が始まりました。

なぜ関東軍は、国境紛争を拡大させたのでしょうか。記事後半では、日本軍特有の気風について指摘しています。対米開戦の決断でも同じことが言えるようです。

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 ――【陸軍中央の制止】を聞…

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