番頭の急死、火事、そして震災 でも、守り続けた酒造り

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山本奈朱香
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 透明な瓶に、白やピンク色の和紙のラベル。「にいだしぜんしゅ」という平仮名が控えめに浮かび上がる。

 仁井田(にいだ)の自然酒。福島県郡山市で創業300年余になる老舗の酒蔵「仁井田本家」の代表銘柄だ。農薬も肥料も使わずに育てた米と自然水だけでつくる。酵母無添加で生酛(きもと)仕込み。含むとまろやかな口当たりで、やさしく柔らかな甘さがじんわりと広がる。

 3年前に商品をリニューアルして以来、若者を含む幅広い年齢層に支持され、6月からは首都圏に展開する「ナチュラルローソン」でも取り扱われている。

ラベルに18代目のこだわり

 2011年の東日本大震災。「福島の自然」をうたった仁井田のブランドは、原発事故風評被害で再起が見通せないほど傷ついた。

 福島の地にとどまって10年。ブランドを立て直した仁井田本家の18代目、蔵元の仁井田穏彦(やすひこ)さん(54)のこだわりが、酒瓶のラベルに小さく書かれたメッセージに凝縮されている。

 「元気な田んぼが溢(あふ)れる日本の未来のために」

 仁井田本家の創業は、江戸中期の1711年にさかのぼる。蔵元は、穏やかの「穏」の字を代々受け継ぐ。16代目の仁井田さんの祖父は穏貞(やすさだ)、17代目の父は穏光(やすみつ)。それぞれ音読みで「おんていさん」「おんこうさん」と呼ばれ、「酒蔵の旦那さん」の雰囲気を漂わせていたという。

 仁井田穏彦さんは、音読みだと「おんげん」。

 「かっこいいでしょう? でも誰も呼んでくれません。『おんぴこ』とか言われています」と穏やかに笑う。

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 穏彦さんが社長に就いたのは…

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