嫌韓なのにドラマは好き 「愛の不時着」ブームの不思議

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聞き手・岡崎明子
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 台湾出身の小説家、温又柔(おん・ゆう・じゅう)さんは、韓国ドラマ「愛の不時着」の熱烈なファンだ。韓国の財閥令嬢と北朝鮮のエリート軍人とのラブストーリーという、日本人からは遠い世界のドラマが、なぜ多くの人に刺さるのか。3歳のときから日本に住み、日本社会を「ちょっと外側」の視点から見ることもできる温さんに熱く語ってもらった。

ヒョンビンが演じたリ・ジョンヒョク大尉だけでなく、「耳野郎」にもひかれるという温又柔さん。数々の名場面が登場します。

「おばちゃん」たちの魅力

 日本で生まれ育った大半の人にとって、北朝鮮といっても漠然としたイメージしかないと思います。私にとっても自分とは関係のない別世界でした。

 それがドラマの中では、北朝鮮に「自分の知っているおばちゃんと似ているおばちゃん」が住んでいました。おばちゃんたちは誰もが個性的で、キムチを漬けたり、洗濯したりしながら井戸端会議しています。そのシーンに、郷愁を覚えた世代もあると思います。

 北朝鮮の寒村出身の素朴な青年や、韓流ドラマ好きで女優のチェ・ジウが大好きという青年も北朝鮮の兵士になっていて、人情味あふれる役柄として描かれています。彼らとソン・イェジン演じる韓国の財閥令嬢ユン・セリが一緒に貝焼きを食べ、貝殻に焼酎を注いで飲むシーンが実においしそうでした。確実に現実として存在しているはずなのに、自分にはまったく見えていなかった世界が、ドラマを通して徐々に照らし出される感じがありました。

「それ、ヘイトだよ」

 ここ数年、嫌韓という言葉を聞く機会が増えました。それなのに、韓国ドラマがここまで盛り上がるこの矛盾は何なのか。日本人は文化と政治をそんなに器用に切り分けて考えられるのかと、不思議に思いました。「本気で嫌韓」な人はドラマを見ないのでしょうが、「漠然と嫌韓」な人は、文化と政治の間に器用に線を引いている気がします。

 映画「パラサイト」が米アカデミー賞を取ったときも、「韓国は嫌いだけど、韓国映画は好き」と平気で言う友だちがいました。「それ、ヘイトだよ」と指摘すると、「自分の正直な気持ちを言っただけなのに、ヘイト扱いなの?」とキョトンとされました。そのときも、なぜこうなるんだろうとすごく考えさせられました。

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 私はルーツが台湾なので「台…

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