祖国に忘れられた日本人 映画監督を動かした1通の遺書

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編集委員・豊秀一
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 戦争の混乱で無国籍状態となり、日本の国籍取得を求めているフィリピン残留日本人2世。中国の東北地方旧満州)で敗戦を迎え、家族と離ればなれになった中国残留孤児。二つの「残留日本人」を描いたドキュメンタリー映画が今月、公開される。戦後75年を迎えて映像が日本社会に突きつけるのは、国家は国民を保護する義務を果たしてきたのかという問いだ。

フィリピン残留日本人問題

戦前のフィリピンには移住者らで作られた日系人社会があったが、父が戦死したり、日本に強制送還されたりし、日本国籍取得の手続きがされないまま、2世の多くはフィリピン人の母と現地に残された。反日感情の中で山に身を隠すなど貧しい暮らしを余儀なくされた人が大半という。今も千人ほどが無国籍のままで日本国籍を求めている。

 映画のタイトルは「日本人の忘れもの フィリピンと中国の残留邦人」。差別や貧困に苦しみながら生きてきた当事者の姿とともに、支援者や弁護士、研究者、ジャーナリストらのインタビューを通じて日本の国の姿を描いている。

 企画・製作をした河合弘之さん(76)は、ビジネス弁護士として名をはせる一方、この二つの問題に取り組んできた。NPO法人フィリピン日系人リーガルサポートセンター(PNLSC)代表理事として、残留日本人2世の日本国籍取得の支援を続けている。

 河合さんは、「日本政府は、フィリピン残留日本人2世に対して救いの手を差し伸べていない。平均年齢は80歳を超え、このままでは問題は消滅してしまう。根本的解決のために問題を広く訴えたかった」と映画製作の動機を語る。

 河合さんから監督を頼まれたのは小原(おばら)浩靖さん(56)。2017年11月のことだ。CMディレクターなどをしてきたが、本格的ドキュメンタリーを作るのは初めて。「二つのテーマに関しても知識がなく、歴史の本や資料、中国残留孤児の国家賠償訴訟の記録集などを読みあさった」

 小原さんが、フィリピンで河合さんやPNLSCスタッフの同行取材を始めたのは18年3月。映画にも出てくる、ダバオの歴史資料館にあった一つの「遺書」が小原さんの心をつかんだ。日本軍に徴用され戦争で亡くなった日本人男性が、フィリピン人の妻にあてたものだ。

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 〈汝(なんじ)もし、一身上…

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